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「おはよー、美優!」
演劇部の部室のはじっこで、いつもどおりコンビニ菓子パンをかじっていたら、みどりが後ろから声をかけてきた。
「おはようごさいますぅ、美優さんん」
カンナもいっしょだった。
「おはよう、みどり、カンナ」
口の中のパンを缶コーヒーで流し込んで、挨拶をした。すると、ジャージに着替える為に、制服の上を脱ぎながらカンナが口を開いた。
「そういえばぁ、美優さんー、一昨日の北高との部活、どうだったんですかぁ?」
んぐっ・・・なっ、なんてことを聞いてくるんだ・・・
「・・・どっ・・・どうだったって、どういう・・・?」
「ああ、えっとぉ、素敵な人、いましたぁ?」
ああ、それ・・・それね。そんな話もあったよね。
「えっ?いや・・・別に・・・なんで?」
「ええー、みどりがぁ、『優依が来たからもう、全部もってかれちゃったわよ』って言うだけで、美優さんがどうだったか教えてくれないんですよぉ」
あっ、ああ、そういうことか・・・あたしは、ほっとすると同時に、あの時の嫉妬心でいっぱいいっぱいの自分を思い出して恥ずかしくなった。
すこしうつむいて、恥ずかしいのをこらえてから、返事しようと顔をあげた。
「あれぇ?顔、赤いですよぉ?もしかして、いい人、いましたねぇ??」
カンナがジャージの前を閉じながら、覗き込んできた。
「えっ?」
あっ、て思ってあわてて頬を両手で隠した。
「ああーーー・・・・そうなんですねぇ?そっかぁ、良かったですぅ・・・うふふふっ・・・頑張ってくださいねぇ、応援してますよぉ」
そう言ってぱたぱたと脱いだ制服をまとめて、奥に置いてあった自分のカバンのところに引っ込んで行ってしまった。
「え・・・っとぉ、ごっ・・・誤解・・・なんだ・・・けど・・・・なぁ・・・」
あたしは、ひざの上に食べかけのパンを半分乗せていたので、立ち上がることも出来ず、ただカバンに着替えを押し込んで片付けているカンナの後姿を眺めるしか出来なかった・・・
しょうがない、あとで誤解を解こう・・・あ、そういえば優依は?
ざっと見渡しても、まだ優依は来てないようだった。
ちょっとした落胆と、昨日のことからの安堵と、今日の練習の心配と、そういったごちゃごちゃした感情をパンと一緒にのみこんで、音響の準備に取り掛かった。
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