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もう何度目か。こうして逃げ回るのは。 茹だるような暑さの中、彼『アスアド』は小さなホブズを片手に、ワルンの街中を走り回る。 とうの昔に親を亡くし出自もはっきりしない彼は、ぱっと見、齢13,4といったところか。 目鼻立ちはしっかりしているが痩せこけている。 服装もところどころほつれ、穴が開きお世辞にも身なりが整っているとは言えない。 無理もない。今手にしているホブズが3日振りの食事なのだから。 ここ、ワルンは『マルバス国・アイヴィエ市』に存在する街だ。 特徴としては、貧富の差が非常に激しくアスアドのようなものも珍しくない。 石作りの建物がところ狭しと並んでいて道も入り組んでおり、一部にはスラムと化した通りもあるらしい。 アスアドも路地裏に逃げ込み息を潜めていた。 「どこに行きやがったあの小僧!ホブズを盗むなんてとんでもない奴だ!なんとしても探しだせ!」 どうやら商店の店主から通報を受けた自警団が探し回っているらしい。 この国にも俗に言う『警察』のような公的組織もあるにはある、が機能していない。 賄賂や不正が横行し、実質的に一部の富裕層のための衛兵となっているので庶民は自警団を作っている。 無論、アスアドは捕まる気はない。 彼はかつて同じく盗みを働いていた仕事仲間の最期を知っているからなおのことだ。 彼らのような"モノ"に人権はない。 「俺は・・・あんな風にはなってたまるか・・・!」 仲間は捕まったあと、強い日が差す灼熱の中、身動きのとれない状態で折檻を受け絶命した。 その間、誰1人助けようなどという者などいなかった。 このまんま生きていても良いことは無いかもしれない。人生が好転するとは思えない。 何より未来のことより今日の食事しか考えられなかった。 せめて、ああいう最期は迎えたくないだけだ。 ただ『生きる』 その為だけに彼は今日も逃げ続ける。 ②へ続く━━
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