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それでも、溺れる。
本当に、そんなこと思っているのだろうか。
耀司は私だけを見てくれているのだろうか。
そこにあやめを重ねていないだろうか。
耀司にとってきっとあやめは特別だ。でも、簡単に触れられる相手ではないだろう。
だから、良く似た私を代わりにしてるんじゃないだろうか。あやめの代わりに、私を抱いて欲を吐き散らしているんじゃないだろうか。
そう考えると、抑えがたい絶望が身体中を駆け巡る。
「お嬢はこんな顔はせぇへん。ここにいるのはしのなんやなぁ。他の誰も知らん顔や。これが見たくて、こんな手元にしのを置いてんねん」
あやめがしないだろう表情を、でも本当は見てみたい表情を、私を使って引き出しているんじゃ?
そうではないと、誰が言い切れる。耀司の心なんか、掴み切れない。
「しの、しの、えぇねんで、怖いんやろ、そやけどオレに預けてまえ。全部全部任せてまえ」
舌先で歯列をなぞって、頬の内側を隅から隅まで舐め上げて、唾液をすすり上げて。
「んんっ、んくぅ」
絡めた舌は私を雁字搦めにしてしまう。逃さないと、言葉ではなく態度で雄弁に語る。
激しい口付けを落とし続けながら、耀司は睦言のように囁き続けた。
「不安で堪らんかもしれんけど、大切にしたんで」
悪い男だ。手の内なんか、一つも見せないクセに、私の心をどうしようもなく陥落させる。
耀司の腕の中が愛おしい。この男に、心を振り回されている。
それは依存と言うのかもしれないけれど、今、転落した人生の中で私が心を惹かれるのはこの男だけ。
きっと、見る人が見たら、馬鹿なヤツだとそう言われるだろうけれど。狭い世界で勘違いを起こしているだけだと、言われるだろうけれど。
「楡木しのがいるんは、ここだけや。オレの腕ん中だけで、しのはこの世に存在できる」
だって、こんなに甘美で悪い口説き文句他に知らない。
こんなにも私の弱いところを的確に突く男を、他に知らない。
本心がどこにあるか分からなくても、一時信じてみてしまいたくなる。
「違うか?」
「…………違わない」
私は、身代わりだから。いつかきっと本物の彼女の代わりに、都合の悪いことを引き受けなきゃいけないだろう。用が済めば、お払い箱にされるに決まっている。こんな生活、いつまでも続けられる訳はない。
でも。
「耀司」
好き、という言葉はぐっと飲み込んだ。口にしてしまえばいつかきっと散々に痛めつけられてしまうだろうから。ーーーー私が。
男の首に両腕を回すと、微かな笑いが耳朶をくすぐる。
ゴツゴツした手が忍び込んで来ては柔肌に直接触れる。
私の肌はそれを喜ぶ。ふくらみをいいように弄ばれて、それにじわりと下着を湿らせる。
赤い舌がちらりと覗いて、ぷっくりと膨れ始めた頂きをちろりとくすぐるように掠めた。
「っあ、やぁ……!」
「イヤやないやろ」
次は遠慮を捨てたように、口に含まれるじゅっと強く吸い上げられた。
「ひぅっ」
頭に危うい痺れが走って、指先から抵抗という抵抗が全て逃げて行ってしまう。
「こういう風にされるの、しのは大好きやもんなぁ?」
男は愉しげに笑いながら、悪いお薬を与えるみたいに私に言う。
「たんと可愛がったるわ、しの。愛してるねんで?」
どこに真意があるかなんて分からない、底なしの沼の中。一時男の言葉を信じるフリをして、私は今宵もこの男に溺れる。
愛されているのはあやめでなく、しのなのだと。
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