スイッチ

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スイッチ

「え、あ」  熱を持った肉厚な舌が耳たぶを弄ぶ。と思ったら、耳殻にまで侵入してきて、ねっとりと中を嬲った。ぴちゃ、と鼓膜の傍で卑猥な音がなって、頭の中がぐわんぐわん揺れる。 「よ、耀司」 「んー?」  耀司は片方の手は首元に、もう片方は腰に回して身体を引き寄せて来た。身体の大きな男だから、抱き寄せられるとすっぽりその内に私は収まってしまう。 「あ……」  喉元を撫で上げられる。大きな手で包むようにして、すりすりと。身体の熱が上がると共に、微かな恐怖が走る。少し力の使い方を変えるだけで、この首は呆気なく締められてしまうんだろうと、そんなことをされたら抵抗なんてするヒマもないんだろうと想像する。 「ん、ん!」  反対の手はパジャマ代わりのホームウェアの裾から、素肌に触れようと侵入してきていた。 「晩御飯は」 「あとでえぇわ」  どこでスイッチが入ってしまったのだろう。そう思いながらもご飯がまだではと言葉を掛けたが、もう耀司には止まる気はなさそうだった。 「さきにこっちを食うことにするわ。しの、口開き」  言われて、大人しく従う。遠慮がちに口を開いて見上げれば、耀司は欲にぎらついた目でこちらを射抜きながら、文字通り“食べる”というのが相応しいやり方で口を塞いだ。  全部全部好きにされる。舌を、口腔を、余すことなくようにがやりたいように蹂躙し尽くす。  裾から侵入した筋張った手はたぷりと揺れるふくらみをまるごと包み込みやわやわと揉み回す。 「んぁ……」  お風呂上がりだからブラは身に付けていなかった。無防備な状態。  まぁどんな状態であろうと、耀司がその気になれば私はいつでもひん剥かれるしかないのだけど。 「あぁ……」 「しっとり吸い付いてきよるわ」  深い口付けの合間に、耀司がそう言ってきた。私の方から耀司にすり寄っているのだと。  否定はできない。私はチョロくてダメな女だから、もう全部耀司に陥落してしまっている。 「こっちも触ってほしいか?」 「あっ」  芯を持ち始めていた頂きをきゅっと摘ままれれば快楽に腰が揺れた。こりこりと刺激を与えられて熱が高まり、短パンの下はじんわりと湿り気を帯び始める。 「ここ弄られるん好きやなぁ?」 「あ、好き」  私の"ハジメテ"は耀司が奪った。抱かれるということが、男を埋め込まれるということが、快楽というのがどういうものか、私は全てこの男に教えられた。  最初の時は戸惑いと諦めだけでいっぱいだったように思う。だって私に拒否権はない。耀司に対してノーは言えない。いつかこうして捌け口にされるだろうと、どこかで予感していたし。  でも。  耀司との行為に苦痛はない。切ないような虚しいような気持ちになることはあるけれど、嫌悪なんかはなかった。  教えられてしまったから。気持ちイイことを。こうして抱かれると、私の隙間がほんの束の間満たさせることを。  それに耀司との行為には時に激しく執拗で、とんでもなく恥ずかしいことを言わされたりあられもない体位を要求されたりもするけれど、痛いとか怖いとかはなかった。  こんなに凶暴そうな男なのに、暴力的なことは一切しない。しかもそれだけじゃない。 「しの」  もう他のどこでも呼ばれることのない自分本来の名前を呼ばれれば、胸が粟立った。  その見た目に反して恐ろしく甘く名前を呼んでみせるものだから、私は毎度それに陥落してしまうのだ。
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