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給食はニンニク抜きで
何を隠そう私は給食大好きな女の子。 クラスの給食に関する全てを掌握する…給食委員会のクラス委員である。
いい忘れたわ。至って普通の体型よ。
高学年にもなると、委員長を任せられるが、私は副委員長としてサポートする役割に落ち着いた。
9月のある日、その事件は起きた。
学校給食には、クラスの希望献立がある。
事前にクラスのみんなには主食、副食、スープ、デザート などの希望調査表に記入してもらう。 もちろん、学校の栄養士さんがバランスを考えての献立てを最終調整するわけだが。
私は友達と2人で、放課後に居残り、希望献立調査表の集計をしていた。
「また食いしん坊発見だよ!主食含め全ての欄にカレーライスって書いてあるよ…」
「ははっ…まぁ、それは一票だね。」
「ちなみに、君は何に入れたの?」
「…ぼくは肉メニューばっかだよ。アハハ、トマト以外の野菜系が苦手でさ。あまり、下味もつけないで欲しいよ。」
「転校してきたばっかだしね。前の学校には給食なかったんだっけ? まぁ、いずれは給食のおばちゃんの真心を注いだ味付けに慣れてくるよ。」
「そうだと…いいけど。」
「頑張って!給食委員長!!」
委員長は照れ隠しをしながら、口許を拭った。
「あっ…」
集計作業を進めていくと、私は恐ろしく違和感のある言葉をそこに見つけてしまった。
「どうかしたの?」
委員長が私の曇った表情を察して、調査表を覗き込む。
主食欄…じ
副食欄…ん
スープ欄 …に
デザート欄…く
そこには平仮名で、「じんにく」と書かれていたのである。
私は背筋が凍りつく感覚を味わった。
もちろん、ふざけた誰かのイタズラの可能性が高いであろうが、赤色のインクで強く殴るように書かれたその文字は私の冷静さを失わせていた。
「じ、ん、に、く…」
委員長はその紙と私の胸元?をジロジロと見つめ、少し距離を取りながら、口を開いた。
「これ、多分、じんにくじゃなくて、にんにくだよ。ほら、右側の二本の線を少し上に、短く書きすぎただけだと思うよ…。相当、にんにくを使用した給食に思入れ?があるんじゃないかなぁ。ハハハ。」
「そ、そうだね。あまり考え込まない方がいいね。」
委員長の視線が少し気にはなったが、
私は無理にでも納得するため、気を落ちつけながら、ゆっくり深呼吸をした。
集計が終了し、我がクラスの希望献立は一応決定した。
みんな大好きボリュームメニューが上位に来ることは甚だ理解していたわけだが…。
あとは、本家の給食マスターズの皆さんにバランスを考えて貰うだけ。
不可解な一枚の調査表…空白の部分には小さくまだ文字が書かれていた。
カタカナの ノ に漢字の 皿 …。
これは一体何を意味してるのだろか。
_______
そして…
待ちに待った、9月22日の6年G組希望献立給食の日がやってきた。
残暑の厳しい照りつける日光のせいなのか、私はその日、運悪く体調を崩し、保健室で寝ていた。
「どうして、今日に限って…不吉な予兆の前触れだったりして…」
時刻はお昼をまわっており、給食の時間。 保健の先生が給食を運んできてくれた。
「んっ…何この鋭く嗅覚を刺激する濃厚な香りは…」
「今日の給食は、小学生のスタミナ不足を補うために考案された滋養強壮に特化した特別メニューみたいよ。G組のクラスの皆の体育の成績が悪かったみたいで…希望も何も意味を成さなかったようね…。」
保健室に独特な香りが充満していく。
ペペロンチーノ、アヒージョ、餃子、焼きニンニク入りアイス…。
「何、この口臭ケアを必要とするメニューの数々…。」
私は…私は…さらに具合が悪くなり、胃の奥から酸味物が身体の外に飛び出しそうになった。
涙目になりながら、私は恐る恐るアヒージョのスープをすくってみる。
そして、震える手を安定させながら、口許に近づけてゆく。
ズルルッ
「こ、これは!!」
食欲不振を解消させる…この味…。私の口のなかは自然と唾液で膨らんでいった。
無我夢中で給食を平らげたあと、私は衛生的な個室においての匂いの残留が気になったので、食べた後の食器をお盆にのせ、直接給食室に向かった。
「すみませーん。」
誰もいないのだろうか。
私は冷蔵庫の機械音以外、物音一つしない給食室の奥へと進んでいく。
「んっ…なにこの匂い…生臭い…さっきのとは違う…」
私は生唾を飲み込み、恐怖で膝が折れ、その場に座り込んだ。
震えて…声もでなかった。
「あっ…がっ…あっ…あっ…」
彼女の眼前にはおびただしい血が目まぐるしく四方八方に飛び散っており、無惨にも給食のおばちゃんたち数名が横たわっていた…。
無数の小さな食材の欠片とともに。
学校に恨みがある殺人快楽者の犯行…凶器らしいものは現場に見当たらず、素手での凶行…大した犯人像も浮かばず、警察組織の捜査は難航していた。
首元に特殊な形状の穴が空いていた事実に見向きもせず…。
給食のおばちゃん殺傷事件以来、給食委員長の彼が学校にくることはなかった。
相当ショックだったのであろう。
私も給食の時間になると、あの凄惨な光景が脳裏に再び甦ってくる。
私の学校生活は皮肉にも十字に切り裂かれ、幕を閉じていった…。
_________それから、10年後…
「私は、給食センター特命係吸血鬼対策課の
ヴァンパイアハンター…」
自己紹介を遮り、襲い来る大量の異形な怪物たち。俊敏な身のこなしでソイツらをバッタバッタと斬り倒していく彼女。
奥にかいま見えた、懐かしの姿を確認し…
ポチッ…シュルルルル…
彼女は胸元のボタンを押し、最新鋭の防護服にグレードアップさせた。
十字架に刺されたニンニクがデザインの対S級防護アーマー給食着スタイル。
「久しぶりだな…やはり、あのとき、君を喰らっておくべきだった…。あの十字架の首飾りさえなければ…」
「減らず口はそこまで…。この給食着スタイルは時間が限られているの…。アンタらの口からこぼれでる…生臭いニンニクの香りがどうにも不愉快でたまらない…。」
「ふっ…我々種族に対しての冒涜はやめてもらおう。我々は克服するのだ…そして、更なる血行促進効果を手に入れる…」
給食をつくるだけが、彼女たちの仕事ではない。
今日もまた、ヴァンパイアハンター はド派手に奴らをぶった斬る!
穏やかな給食タイムを届けられるその日を望んで…。
【終】
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