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 私――アルトサックスのソロがある曲を部員たちが勧めてくれた。  有名な旋律を吹くと、小さな拍手が沸き起こった。すっかり暗くなった夜空には、本物の星も輝き始めている。  演奏が終わると、いよいよおじいちゃんの花火だ。これが、最後の花火だ。  小さかった頃は、花火作りの現場をよく見せてもらった。  花火に詰める火薬の粒を「星」と呼ぶ。星が空中で光り、軌道を描きながら落ちていくのを眺めるのが花火なのだと教えてもらった。 「じゃあ、おじいちゃんは流れ星を作っているんだね」  玉皮と呼ばれる球形の容器にきっちり詰められた星を見ながら私が言うと、おじいちゃんは笑った。 「そうだ。だからおじいちゃんの花火を見ながら願い事を言えば叶うかもしれないぞ」  校庭の花火大会は大迫力だ。こんなに近くでおじいちゃんの花火を見たのは初めてだった。  赤や黄色、緑に光りながら流れるおじいちゃんの流れ星を見ながら、何を願おうか考えた。次の花火が最後の一発。おじいちゃんの人生最後の花火だ。  9月の夜空に開く大輪の菊。爆発した星は軌道を描いて降ってくる。  卒業演奏会は思いがけない形で実現できた。花火大会はできなかったけど、おじいちゃんの最後の花火をこんなに近くで見られた。  とりあえず今の私には、叶えたい願いはない。おじいちゃんの流れ星は、他の誰かの願いを叶えてほしいと願った。
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