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境心霊探偵事務所
――幼い頃より、誰もが聞いた事、見た事、不安に駆られた事があるのではないだろうか?
雨の降る夜一人歩いていると、ついつい後ろが気になって、振り向くが誰も居ない。
怪談の見すぎかとホッと息を吐いてまた歩き始めると、何も無い道の脇に人が立っている。
スラリと美しい立ち姿。
長く伸びた髪。
その全てが黒く、真っ青な傘がポカンと浮かび上がっているようで不気味さを感じさせる。
なんだか浮き足立って足速に前を通り過ぎるが、どうってことは無い。
なんだ、只の通行人か。
顔はやけに暗くて見えなかったが、多分女性だったかな。
綺麗な長い髪にあのスラリと細い立ち姿、きっと綺麗な人だろう。
今思えばあの足の細さは、スカートかワンピースを着ていないと見られないんじゃないか?
やはり、女性だ。
ん?まてよ・・・
あの人、靴・・・履いてたっけ――?
その瞬間、背筋が氷のように凍りつく。
こうなっては頭に浮かぶのは、青傘の女性の不可思議さや不可解さばかりだ。
次から次に溢れ出し、恐怖は心拍を高ぶらせる。
一定のリズムで鳴るそれは、これから起こりうる最悪の結末が叩くノック。
とてもじゃないが振り向く事など出来なくなってしまった私に残された道は、前にしかなかった。
只ひたすらに叫び声をあげて走り続ける、それが大人の私に出来る精一杯であった。
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