青傘の女

4/7
前へ
/47ページ
次へ
「随分と、散らけた部屋だな」 二十代、一人暮らしの女性の部屋に踏み入っての感想はそうじゃないだろう!!!! 「ごめんなさいね。お陰様で最近、除霊やお祓いに忙しかったもので!」 霊媒師、除霊師、占い師、神主、僧侶、調べる限りの有名な門を叩き、言われるがままにしていた結果、一人暮らしのワンルームはあっという間に足の踏み場も無い状態へと変貌してしまっていた。 「待ってて、今お茶を入れるから」 そう言って足で動かして仕舞わないようにそっと部屋の中へ入って行くと、後ろから騒音が聞こえてくる。 慌てて戻ると、ズケズケと土足で上がり込み、和服の長い裾や袖でこれでもかと魔除の品々を蹴散らす悪魔の男が一人。 「止まれぇーーい!!アンタ、何してくれてんの!?ここはJAPANよ!OK?それに、これ全部魔除なの!場所や向きが決まってんの!めちゃくちゃ高いんだからね!本当馬鹿じゃないの!?それでも心霊探偵なの!?やっぱりアンタ偽物なんじゃな」 「これが――。うむ、おかしいなこの前これと同じ品を百円均一の店にて見た。それに――やはり、この部屋は普通の部屋のようだ。心霊に関して言えばではあるがな」 な!?百円!?普通!? 何なのよ、そんなの見るだけで分かる訳ないでしょーが!! 「ねぇ、私にはもうアンタしか頼る所が無いのよ・・・本当にあの霊を除霊してくれるのよね?」 「除霊やら祓うやら・・・お前達は何様のつもりなんだ?これだから人間は嫌いだ」 また、騙されたのか私は・・・ 視界が潤み、目から涙が溢れて止まらない。 もう駄目なんだ。 そう思うと膝が崩れた。 この歳になって人前でこんなに声を張り上げて泣く事になるだなんて―― ふと、頭の上に柔らかな重みを感じ触ってみると、タオル地のハンカチがかけられていた。 「な、・・・全く、仕方ないな。もう十分だろ、いつまで立たせておく気だ。早く座らせろ」 私は男を奥に通すと、ハンカチで顔を拭いてやかんをに火をかける。 なんだ、案外優しいところもあるんじゃない。 こんな可愛らしいハンカチを持ち歩いてるなんて意外よね。ギャップ萌え的な? あれ?・・・これよく見たら私のじゃない? でもこれ部屋の中に干してあった筈だけど・・・ 「ピィーー!!」 おっと、危ない。 火を止めて急須にお湯を移すと、お茶菓子と共にお茶を出した。 「どうぞ、大した物はありませんが」 事務所で久しぶりに見た湯呑みが懐かしくなり、引っ張り出してしまった。 はぁ、やっぱりお茶は湯呑みよねぇ。 気持ちがまったりして落ち着くわぁ、やっぱ洋かぶれても日本人なのねぇ。 「なんだ?!コーヒーじゃないじゃないか!茶なら茶と最初に言え!驚くだろ!?」 「それはこっちのセリフじゃーー!! 自分は客に茶も出さなかったくせに、出して貰えただけでも有難いと思えーー!!」 い、言ってしまった。 でも仕方ないよね、本当の事だし・・・ 私は悪くないわよ、悪くないわ・・・悪くない筈なのに・・・。 何でそんなにしょんぼりしてるのよ!! ほら、さっき迄みたいに毒舌ツンツン大王しなさいよ!言い返しなさいよ! 「そうか、言われないと分からなくてな・・・すまなかった」 そんなにしおらしく言われると、私が悪いみたいじゃないの・・・。 何だか初めて目が合った気がするわ。 「いいえ、ごめんなさい。私が悪いのよ。最近ストレスが溜まってたから――聞いて貰えただけでも良かったわ、ありがとう探偵さん。これ飲んだら帰って頂戴、仕事はこれでお終いでいいから」 近くで見ると案外若い人だったのね。 私とそんなに歳変わらないかも・・・ 良く考えたらこの歳で自分の会社持ってるなんて凄いんじゃないの!? それに比べて私は―― 「俺を見くびるな、貰った対価に見合う仕事はさせて貰う。それに・・・情報提供者()には感謝しているつもりだ」 対価って、今までの所とは比べ物にならないくらい安かったのだけれど・・・ この会社大丈夫なのかしら・・・ 「そう、あまり期待しないでおくわね・・・」 暫く休憩すると、男はそのまま事務所に戻ると言うので、玄関まで見送る事にした。 「そうだ、最後に聞きたいのだが。 傘の女性はいつもどっちを向いて立っていただろうか?」 「えっと・・・、言われて見るといつも私の方を見てた気がするわ・・・!ちょっと!帰り際にやめてよ、怖くなるじゃない!!」 背筋に寒気を感じ身震いする私を後目に、男はいつもの調子で『そうか』とだけ言って帰って行った。 部屋に一人残された私は、倒れた置物を起こして回る。 不気味な容姿の、猫だか犬だか分からない顔ほどある置物。 それが妙に目に付いて、思わず抱き上げていた。 『うむ、おかしいなこの前これと同じ品を百円均一の店にて見た』 「・・・お前、百均だったの?」 裏返すとお尻の下にmade in Chinaと刻印されている。 それを見て私は吹き出した。 転げ回って腹の底から笑って、こんなのいつぶりだろう。 天井からぶら下がる無数の飾りが赤子の玩具のようで懐かしい。 きっと気の所為だ。 明日から仕事にも行こう―― そうだ、次の休みに久々に実家へ帰ってみるのも悪くないかも。 大サイズのゴミ袋を引っ張り出して手当り次第詰めるとなんと三袋も一杯になってしまった。 暫くはリサイクルショップ通いか・・・ 壺もあるしなぁ・・・ 物を片付けると部屋が広くなり、心も少し晴れやかに感じる。 ついでに髪でも切ってみようかな? 「そうだ、湯呑み洗わないと」 狭い流し台に突っ込んで洗っていると、ふとあの嫌味な男を思い出す。 本当散らけるだけ散らけて行ったな、あの男は! 絶対彼女いない!! あんなでちゃんと生活出来ているんだろうか? 「あ!!スカーフ返してもらってないじゃん!!」 元彼に貰ったやつなのに・・・ もういい!! これからはバリバリ働いてキャリアウーマンになってやるーー!!
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加