見知らぬ駅についた

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 至近距離。  俺の顔から3センチと離れていない距離に、何者かの顔がある。 「とったんだろ、けせ」  俺は夢中で頷きながらポケットに手を突っ込み、取り出したスマホを操作した。  画像アプリを立ち上げ、動画も写真も残らずゴミ箱にぶち込んだ。 「んっふ」  そいつの笑い声なのか何なのかわからない声がして、俺は再び意識を失った。  首が痛すぎて気がつくと、そこはいつもの満員電車の風景だった。  そろりと顔を上げると、前に立っていた人と目があった。  なんつー寝方してんだコイツ、みたいな顔をしていた。  でも戻れたことがとにかくうれしくて、俺は微笑んだと思う。  にぎりしめていたスマホを立ち上げ、そのまま会社に欠勤のメッセージを送った。  嫌な汗をかいたし、とにかく疲れた。  とても仕事ができる状態じゃないから、早く家に帰ってシャワーを浴びて昼寝したかった。  午後4時頃に目が覚めた。  あの出来事は、現実のことだったのか。  あまりにもリアルな恐怖が薄れたわけではなかったが、もはや手元に証拠は何もなく、確かめる術はない……。  しかし、思い出してしまった。  俺は布団から飛び起きてジャケットのポケットに手を突っ込んだ。  ある。  電源は切れているが、異世界に移動する直前に録音を開始したボイスレコーダー。  急ぎ充電ケーブルに接続し、電源を入れる。  あるぞ、確かにある。  電源が切れるまで延々録音を続けていてくれた、めちゃくちゃ容量のでかいデータが! 「おい」  俺は反射的に行動した。  すぐさまデータの名前を長押しし、消去を選択。 「んっふ」 〈完〉
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