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虚構の記憶
部署異動して最初に仲良くなった奴の家に、週末泊まりに行ったんだ。
意気投合したきっかけというのが、ファミコンの話。
これまでもゲーム好きは周りに結構いたけれど、スマホのゲームだったりプレステ4の最新作だったりで、ちょっと話が合わなかった。
でもそいつとはドラクエ2の復活の呪文ネタやメガテンのオートで即死ネタで盛り上がれて、子供のころに戻ったみたいな気分になれたんだ。
で、迎えた当日。
途中のコンビニに寄って晩飯と酒盛りセットを購入して、そいつん家へ。
晩飯を食いながら(俺はカップ焼きそば、友人は卵かけご飯)懐ゲー話で盛り上がったんだが、どうも話が噛み合わなくなったんだ。
「プーヤンてゲーム、オレ最初にやったときは風船の色が赤と水色だけだと思ってたんだけど、中学になって久しぶりにやったら、オレンジの風船が追加されててビックリしたんだよね。
今みたいにネット環境に接続してゲームの内容を更新したりできない時代じゃん?
あれいまだに不思議なんだ」
「何言ってんだ?
プーヤンだろ、あのゴンドラ上下させながら弓矢で風船を割るやつ。
風船の色、3色じゃないぞ」
友人はそう言って食べかけの卵かけご飯をほったらかしたまま、黄色く黄ばんだファミコンに白いプーヤンのカセットを差し込んで電源を入れた。
懐かしいドラムとオオカミの遠吠えを模したサウンドのオープニング、そして軽快な「森のくまさん」の間奏の後、お馴染みのゲーム画面に。
そこで敵キャラのオオカミたちがつかまって降りてくる風船の色は――
「み……緑?」
「そう。
赤、水色、オレンジ、緑の4色」
なんで、中学のときに確認したときよりさらに一色増えているんだ?
その当時は自分なりに、幼児期はオレンジという色を認識できなかったのではないかという説で納得したのだが。
いい機会だと思った。
オレは今まで長年不思議で仕方がなかったことを、この際友人に打ち明けてみた。
「実はプーヤンの件だけじゃなくて、自分の記憶が事実と違っていることがいくつかあるんだ」
「おっ、なんだ次は異世界ネタか?」
ニヤニヤしながらこちらを向き直った友人だったが、オレの顔が深刻だったのか、表情を改めてテレビを消し、居住まいを正した。
「たとえば、気温。
よく言うだろ『昔は今ほど暑くなかった』なんて」
「まあな。
近年の夏の暑さは異常だよ」
「オレの記憶だと、昔のが断然暑かった。
具体的に言うと、東京は天気予報で夏の最高気温が連日39度だったんだ」
「んなわけないだろ」
「いや、毎日小学校に行く前に天気予報見ていたからハッキリ覚えてる。
関東地方の天気が映るときに左上にある県……群馬かな?
あそこの最高気温が41度になっているときがあって、東京が負けてんのが悔しかったんだもん」
友人は腕を組んで首をかしげながら「うーん」と唸った。
「じゃあ実際どう?
最近の夏って暑いと思わないもん?」
「年に一回か二回はめっちゃ暑いなと思う日もあるけど……子供の頃のが毎日暑かったと思う」
特に肯定も否定もせず、友人は「他には?」と促した。
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