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「どうです。なかなか広いでしょう」田中と名乗った不動産仲介業者の営業パーソンは、垣田を部屋のなかに導いた。
がらんとしたリビングは、カーテンの取り付けられていない南向きの窓から差し込んでくる光でフローリングが照らされていた。
「清掃もリフォームも完了してますから、問題なしですよ。すぐにでも入居できます。アレさえなければ、完璧な物件なんですけどね」
「築、何年くらいだっけ?」と垣田が田中に問う。
「今年の冬で11年ですね」田中は手に持った資料に目を落として言った。
「こういうの、あんまり詳しくないんだけどさ。建て替えってどれくらい経ったらするもんなの?」
「うーん。モノによるとしか言えないんですが、だいたい40年くらいが目安って言われてますね」
ということは、このマンションの寿命は29年ということになる。29年後と言えば、垣田は71歳だ。はたしてこのマンションと自分と、どっちが長生きできることやら。
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