事故物件

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 垣田は洋室の扉を開けた。リビングや和室とは対照的に、がらんとした空間のままだった。もちろん盛り塩はまだある。垣田はそれを見て、ソルティドッグを作るにはちょうどいいかもしれないなどと思ったが、もちろん作らない。コンビニの袋を床に置くと、盛り塩の皿を手に取って台所に行き、水を掛けた。  塩は何事もなかったかのように水に溶け、排水口に流れて行った。  日付が変わって、午前2時になった。  垣田は黒い蝶ネクタイをしてバーのカウンターに立っている。  この時間になると、ほとんど客は来なくなるが、3時を過ぎたあたりから、近所の水商売の店で勤務を終えた若い女性が疲れを癒しにやってくる。この時間帯は垣田にとって休憩時間のようなものだった。  カウンターの下をしゃがんでくぐると、誰もいないバーのなかで、客用の脚の高い椅子に座り、自分のために作ったバランタインのロックを飲んだ。  昼間、重い荷物を運んだためか、肩から背中が少し凝っている。垣田は自分が、いつもより疲れていて、いつもより高揚しているのを自覚した。
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