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垣田は自分の健康にあまり自信がなかった。バーテンダーという職業柄、常に昼夜逆転の生活をしているし、もちろん酒もふつうの人よりたくさん飲む。店は禁煙ではないため、たばこの煙がこもったなかで毎日仕事をしている。たぶんこの職業は、自分の寿命を10年は奪い去っていっただろう。と考えると、29年後の71歳という年齢は、ちょうど頃合いだと感じた。
嫁もいないし、子供もいない。結局、結婚は一度もしなかった。
「いいね。悪くない」
そう言って垣田は六畳の和室のほうに足を運んだ。
「ふつうの相場なら、この程度の物件はいくらくらいなの?」
「まあ、だいたい中古で2000万円くらいですかね」
「ってことは、半値以下まで下がってるのか」
「ええ。売主さんが管理費だけでも大変だから、少しでも早く売りたいらしくて」
「へえ。住んでなくても管理費って掛かるんだな」
垣田は郊外の家賃の安いアパートから仕事場である自分のバーまで、毎日自転車で通っている。理由はふたつあって、飲み屋街の雑居ビルにある店の近くには適当な駐車場がないこと、もうひとつは、飲酒運転になるから。
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