事故物件

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 垣田が自分の店を持ったのは、29歳のころだった。隣町にあるそこそこ名の知れたバーで修行を終えると、迷わず独立した。地元の信用金庫から借金をして開業した店は、合計で10席ほどのこじんまりとしたバーだった。それ以来、そこでずっと商売を続けている。  開業直後の滑り出しはとても良いとは言えず、酒屋への支払いも滞らせるような始末だった。垣田は店の近くの、そこそこ高級な賃貸マンションを引き払って、家賃の安い今のアパートへ引っ越した。片道40分もかかるが、ほかに選択肢はなった。  休日はまったく設けず、まるで石にでもかじりつくかのようにして商売を続けるうちに、徐々に常連客も増えて行き、開業10年で借金を完済し、最近は少しだけだが預金もできた。  余裕ができると垣田がまず最初に考えたのが引っ越しだった。朝方、店を閉めたあと、アルコールの入った身体で自転車に乗るのは苦痛だった。特に夏は、早朝でもすでに暑くなっているので、滝のように汗をかきながらペダルを動かすと、腹の中は水分でいっぱいなのにひどく喉が渇くという、意味のわからない状態に追い込まれる。
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