事故物件

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 垣田の預金通帳には、今450万円ほどのたくわえがある。販売価格との差額の500万円くらいなら、どうにかなるかもしれない。実際に手の届きそうな物件を見ると、欲がどこかから湧いてきてそんな気持ちが瞬時に芽生えた。 「どうしてこんなに安いんだ?」そう問うと、田中は少しまぶしそうな表情をして、 「あの、それはちょっと訳ありでして……」と言葉を濁したが、「前に住んでた方がお亡くなりになったそうなんです」と言った。 「ふうん」  垣田はそういうことはまったく気にしない。今まで一度もお化けや幽霊のたぐいを見たことがない。どこかにいるのかもしれないが、自分に見えないものならば、気にしても仕方がないと思ってる。そもそも、この日本中で悲惨な死に方をした人間がいない場所などどこにもあるはずがない。そいつらが全員幽霊になったとするなら、日本列島はまるで幽霊の満員電車のようになっているはずだ。 「どんな死に方、したの?」垣田は平然としている。 「あの、自殺、らしいです」
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