〇〇差別

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 特に明美の父が気に入ったのは、新司の職業だった。倒産することなどおよそ有り得ない役人という職業は、一人娘を嫁がせるのにもっとも好ましいものと思ったらしかった。実際、役所は今でも年功序列がほぼ守られているし、よっぽどのヘマをやらかさない限りは、閑職に飛ばされることはあっても馘首されることはない。  将来の助役候補が配属されるのは市長の知恵袋としての役割を果たしている秘書室で、新司の所属する産業振興課は次点というところなのだが、それほど出世欲があるわけでもないし、また産業振興課でも高い点数を挙げれば秘書室に移動になることも有り得る。 「その、ちょっと気が早いかもしれないけれど、子供はいつくらいに作るつもりかしら」明美の母が何の前触れもなく言った。 「ちょっと、お母さん。まだ式も挙げてないのに、ちょっと焦りすぎよ」明美が少し大きめの声でそう答えた。 「でも……、二軒となりの大石さんところも、来年に三人目のお孫さんが生まれるらしくて、ちょっとうらやましくて……」  新司はにわかに自分の頬が赤くなるのを感じた。ごまかすように、おちょこの日本酒を煽る。
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