〇〇差別

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「そんなに急がなくても、私も新司くんもまだ26歳なんだから、今年来年みたいな話じゃないわよ」 「でもねえ、20代も半ばを過ぎたら、早ければ早い方がいいわよ。何も挙式を待つこともないじゃない。ふたりとも正式に婚約してるんだから」  明美はわざと困ったかのように顔をしかめている。 「まあ、それはさずかりものですから」そう言って新司はこの話題を終わらせた。 「それもそうよねえ」と明美の母は首を二度縦に振った。  明美の父が、空になったおちょこに日本酒を注いでくれた。新司は軽くそれに口を付ける。 「もう一本、頼むよ」明美の父が言った。 「はーい」明美がソファを立って台所に行った。  大皿に盛られたまぐろの刺身に箸を伸ばす。わさびをたっぷり溶かした濃い口しょうゆにそれを軽く浸して、口のなかに放り込んだ。 「ところで新司君。きみのご両親なんだが、来月の連休あたりにでも、もう一度こちらにおいでになったらいかがだろう」明美の父が言った。「いや、特に用事があるわけじゃないんだが……。とにかく両家で懇親を深めておくことは、悪いことじゃないからね」  いきなりの提案に新司は一瞬、何と答えてよいか迷ったが、
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