〇〇差別

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「まあ、安物だけど……。それでは、そのうちご教授願います」  表面がまだ熱を持っているお銚子を手に取って、新司は明美の父にお酌をした。  明美の父は、新司の「ご教授願います」という発言がいたく気に入ったようで、両の頬を持ち上げた笑顔を見せた。 「ウチは接待ゴルフするのも仕事みたいなものだからねえ。営業職ってのは、休日も仕事みたいなもんだよ」 「僕もたまに役所の先輩から誘われることはあるんですが、この際、お義父さんに教わって本格的に初めてみることにします」 「ゴルフができなきゃ出世できない、なんてのはもう前時代的な考えかもね。夏は暑くて冬は寒いが、デスクワークだけじゃどうしても運動不足になりがちだし、やって損なことはないよ」 「ええ。おっしゃる通りです」  夜の九時過ぎあたりまで明美の家に滞在した後、新司は暇を請うた。  スマホで代行運転を呼んで乗り込む。玄関の表まで出てきた明美が手を振って見送ってくれた。  代行運転手が乗る車の後部座席に座り、 「ちょっと、電話してもいいですか?」と断ってから、新司はスマホ電話を取り出した。
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