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時計はちょうど9時半を示していた。実家に住んでいるころから、父はいつもちょうど9時から風呂に入り、1時間ほどの長風呂をしてから出る。その習慣は今も変わっていないらしかった。
「そっか。アネキは?」
「まだ仕事なのよ……。最近、新しいプロジェクトのチームに選ばれたとかで、ずっと残業続きで、ちょっと心配で」
「はあ。相変わらずだなあ」
新司のふたつ年上の姉は、金融機関傘下のシステム会社に勤務をしている。来年は弟の新司が結婚しようというのに、姉はまだ独身だ。何よりも仕事が楽しくて仕方がないらしい。
「佐藤さんところに、あんまり図々しくお邪魔しちゃダメよ。きちんとお礼を言っておくのよ」
「わかってるよ。でも、来いと言われたら断るのが難しくてね」
「仕事のほうはどうなの?」
「どうって、別にかわりはないよ。いつもどおり」
車は交差点を曲がって、新司の住むアパートまで残り100メートルほどになった。
「それじゃ、まだ電話掛けるね」そう言って新司は電話を切り上げた。
間もなく代行運転の車は目的地に到着した。料金を支払い、車を降りてお釣りを受け取る。
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