〇〇差別

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 この地方独特の歴史的経緯が複雑に絡み合って、○○差別というのが発生し、それを現代の社会では禁止してでもいるのだろうか。いや、おそらくそれはない。大学四年間を民俗学に肩までどっぷりつかってすごした俺は、この地方に関する習俗については、ここで生まれ育ち歳をとった老人よりも詳しいくらいだ。○○差別などというのは、一度も聞いたことがない。  おそらく、正樹は酔ってるのだろう。 「気分を害したなら、すまない」  新司はそう言って、この場の不興をやりすごすことにした。  翌日の午後、新司のメインの仕事は「東日本酸素工業」の専務と企画部長と専務の秘書を、市内の工業用地に案内することだった。  役所を訪れた客を局長や課長とともに出迎えて、何度も頭を下げながら名刺交換をした。  市としては、空き地になっている市有地への工場の誘致は、なんとしても達成したい、いわば最優先事項と言っても良かった。  前日までにしっかり作り込んでいた資料を三人に手渡すと、専務はダブルスーツの胸ポケットから老眼鏡を取り出し、じっくり眺めた。
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