裕哉・翔太郎

2/5
前へ
/93ページ
次へ
 それから三日と空けずに駅で、家の前で、バイトに向かう道で、遊びに来たから、と顔を見れば「好きです」と告白してくる前野くんに、返事を求められてるわけじゃないし、どうすれば良いんだろうと考える。  洋平が金を使って俺を陥れようとしてるのかもしれない。なんたって未成年だ。興味本位で手を出す事なんてできるわけが無い。  洋平絡みならこのまま放置しておけば良いし、そうでないなら・・・どうしよう。  ゆうと同じ年だろ?六歳も年下の子に?  無い無い。無いわ。  そう思っていた八月前半。  お盆休みに入る直前の週末、出店を出すだなんて余計な事を考えついた我が師匠が、ハンカチやらタオルやらを袋詰めしているのを手伝えば、師匠の旦那が「これも」と木彫りの小物を持ってくる。  わりと奥まった、それほどいい立地では無い場所で、これならのんびりできるね、と師匠と旦那がふわふわ話しているのを、いやいやアンタら結構なイケメンですからね?そんなん無理に決まってるでしょ。と心の中でつっこんで。  自称友達という師匠の『お友達』やらご近所の喫茶店のマスター)らが「せっかくのお祭りなんだから!」とお好み焼きやありえないほど鮮やかなジュースを作り出し、数量限定で頼むわ、と旦那の方の知り合いからパンケーキとクレープを持ってこられて、なんだか「何屋なんだよ」って怒鳴りたくなった。  芸術家ってやつは・・・。  もちろん師匠の友人や旦那の知り合いは全て芸術家だ。・・・変人だけど。  そんな変人たちに囲まれて始まった祭りは結局洋平にめちゃくちゃにされた。初日から喧嘩をふっかけられ、三日間イチャモン付けられ、師匠も旦那も芸術家だから屋台をやるって言っても全部こっちに丸投げだし、ここには俺ともう一人いるバイトだけ。  何も知らない子に怪我を負わせるわけにはいかないし、とりあえずゆうにはここに近寄らないように言っておいたから大丈夫だと思うけど、結局俺は手を出さず、一方的に殴られて終わった。さすがお祭り、人気のない場所だとしても誰かしらはいる。目撃者には困らないだろう。  最終日には洋平に雇われたのか強そうなのが一人着いてきていたけど、ゆうの彼氏に助けられてしまった。  三日間の祭りの間も連日顔を見せてくれた・・・と言っても遠目から見ていただけだったけど、前野くんの事はやっぱり信用出来なかった。  だから祭りが明けた月曜の朝、その子が慌てて何があったのかと駆け込んできた時もかなり冷たい態度を取っていたと思う。  でも、ゆうの入院した病院に着いて、目を覚まさないゆうと真っ青な顔で付き添ってる愁を見て泣き出した前野くんを慰めている内に、なんというか、絆されてしまった。
/93ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加