星を見ていた

7月9日 6:00 PM

　その日美矢は、仕事を早めに切り上げて横浜にいる姉の家に遊びに行って、そのまま泊まる予定だったが、キャンセルになった。だから1人ぷらぷらと買い物でもしようかと思ったけれど、こんな暑い中人混みをかき分けてまで欲しいものはないと潔く都心へ出るのは辞めにして、最寄りの3駅手前で降り、カフェバー「スターノート」に立ち寄ることにした。

「美矢さん、いらっしゃい」

　スターノートの店長、アリスはおそらく美矢と同い年くらい。きっと32、3だと思うが、シミソバカスもほとんどなく、白く透き通るような肌。そして柔らかく顔の周りを遊ぶブラウンの長い髪の毛。オフホワイトのノースリーブニットにデニムの上に、赤いエプロンを合わせている。

　アリスは3日前から新しくこの店舗にきて店長を任されているらしい。もともとアリスの前は柄本(えもと)さんという別の女性が店長をやっていたのだが、異動か何かで別の店舗へ行ったのか、アリスと入れ替わりに姿を見ない。柄本さんはほとんどお客さん前には出てこなかったし、あまり親しくはなかったが、アリスとは不思議とすぐに打ち解けた。