王道転校生、逆井くんの策略

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王道転校生、逆井くんの策略

――あっ、これ前にやったBLゲームだ。  前世の記憶を取り戻した瞬間、そう思った。  あのころの俺はしがないコミュ症サラリーマンで、加えて言うならBL漫画、小説、ゲームだけが楽しみの隠れ腐男子だった。  いつどうやって死んだのか、そしてなんの因果でこのゲームの世界に転生したのかはわからない。  ただ一つだけハッキリ言えるのは、「もしかして今なら、塚田くんを攻略できるんじゃね?」と言うことだった。  王道学園の親衛隊総長である塚田くん。  百六十センチちょっとの小柄体型ながら、このBL学園の親衛隊の頂点に立つ強者だ。  一見すると女の子に間違えるような、愛くるしい顔立ちからは想像出来ないほどの統率力とカリスマ性を持つ男の子。  しかし彼は特定の人物に心酔しているわけではない。 『秩序溢れる美しい学園を愛しすぎるがゆえに、親衛隊総長を務めている』と言う謎設定のもと、主人公である転校生の邪魔をする立場にあるのだ。  そのためどの攻略者を選んでも、必ず彼が立ちはだかる。親衛隊隊長と言う中ボスを退けると遂に、ラスボスである総長(塚田くん)の登場だ。  激しい攻防の末に見事彼を撃破(?)すると、攻略対象者とのめくるめく愛の日々が待っていて……。  しかし俺はこれに納得しなかった。  塚田くんは学園の秩序を守るために、奔放で自由すぎる転校生に文句を言い、時に邪魔をするんだろう?  悪いのは学園の規則を守らない転校生と、それから塚田くんの行動をイジメと判断し、全校集会で断罪する攻略者たちの方だ。  しかも塚田くんは断罪後に強制退学を言い渡されて、失意のドン底に落ちたまま学園を去ってしまうと言う、過酷な運命が待ち受けているのだから、堪ったもんじゃないだろう。  なんて哀れな塚田くん!!  転校生よ、自分さえよければ他人はどうでもいいのか!?  と憤慨しまくり、いつしか塚田くんを応援するようになっていた。  だけどいくら俺が応援したからと言って、ゲームの中で塚田くんが幸せになることは決してない。  プレイすればするほど切なくなってきた俺は、ゲームを手元に置くことすら嫌になって結局中古屋に売ってしまったのだ。  それが今。  なぜか件のBLゲームの中にいる。  しかも俺、転校生。  前世を思い出したの、転校前日。  ぐわあああ、なんで俺は転校生なんかに転生したんだよ!!  このままでは俺が塚田くんを不幸にしてしまう!!  俺のせいで悔し涙を流す塚田くんなんか、絶対に見たくない!!  困った。  本気で焦るしかない。  こうなったら塚田くんを不幸にしないためにも、フラグを(ことごと)く折りまくるのだ!!  そう決意した俺は攻略者たちに目を付けられないよう、塚田くんを不快な気持ちにさせないよう、一心不乱に行動した。  しかしゲームの強制力とでも言うのだろうか。  俺の行動は全て裏目に出てしまい、結果攻略者たちをハートを鷲掴んでしまったようだ。  このままではハーレムエンドまっしぐら。  しかもフラグを折ろうとすればするほど、塚田くんに冷たい目で睨まれてしまう。  まぁその目も嫌いじゃない。むしろゾクゾクする。  しかし俺が目指してるのはそっちじゃないんだ。塚田くんとのめくるめく欲望の日々なんだ。  当の彼はそろそろ腹に据えかねて、俺を呼び出そうと考えているころだろう。  なんてこった。  思った通りにならない状況に、苛立ちが隠せない。  あまりの状況に絶望し、攻略者を堕とすつもりはありませんと伝えに行こうと思ったこともあったが、そのたびに毎回ハプニングが巻き起こり、塚田くんに近付くこともできないばかりか、攻略者共の好感度だけがうなぎ登りする始末。  そしてまた、塚田くんに睨まれて……もうどうすりゃいいんだ、お手上げだ……。  悲嘆に暮れて、毎夜涙で枕を濡らす日々が続いた。  かつての推しに嫌われたくない。  せっかくこの世界に転生できたのだ。できればお近付きになって、キャッキャウフフな仲になりたい。  だがこのままでは、そんなこと絶対に無理だ。  詰んだ。  俺は一体どうすればーーーーー!!  そんなある日、進退窮まり悩みに悩み抜いた俺の脳裏に、突如天啓が閃いた。 ――塚田くんの呼び出しを待つのも手じゃないか……。  と。  こちらから行動しようとすれば邪魔されるばかりか、ますますドツボな状況にはまっていく。  しかしシナリオ上、塚田くんは必ず俺のことを呼び出す運命にある。  ならば余計なことはせず、呼び出されるその日を待つと言うのも手じゃないだろうか。  そしてその際に告げるのだ。 「俺は対象者のことなんて何も思っていないのだ」と。  むしろ付きまとわれて困っているのは俺の方。  だから、奴らの魔の手から俺を救ってくれと直訴しよう。  そしてあわよくば塚田くんと仲良くなって、それから先はグフフフフ。  考えを改めた俺はフラグを折ることを止め、塚田くんに呼び出されることだけを考えて、学園生活を送ったのだった。
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