プロローグ

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プロローグ

「殺したいの」 弱々しく掠れた声でそう教えてくれた彼女の目からは、「もういいでしょ」と言わんばかりに涙が溢れた。 彼女には似合わない「殺したい」という言葉。 俺と同じ「殺したい」という気持ちを抱えて生きている人。 最終日のレイトショー。 洗剤の匂いと暖かい空気に包まれたコインランドリー。 緩く結んだ靴紐。 言葉の後にふふっと笑う癖。 気持ちを発しない代わりに零れる涙。 フルーティーな香りからホワイトムスクの香りに変わるまで過ごした時間。 左手を空にかざして見たかったモノ。 何度季節が移り変わろうと、彼女の姿が一枚も残っていなくても、消えること無く残り続ける記憶。 俺と彼女が抱えて生きてきた「殺したい」という感情。 その感情からは逃げ出す事なんてできないと思っていた。 その感情から彼女を解放してあげたいと思った。 だから俺は、彼女を殺した。 彼女を殺したという記憶を抱えて生きていく為に。
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