ミハイルside 21~求婚~

1/1
前へ
/130ページ
次へ

ミハイルside 21~求婚~

 邑妹(ユイメイ)が姿を消してから、ラウルはやや情緒不安定気味になった。それに関しては、私も同様かもしれないが、崔の動きが活発化している今、予断を許すわけにはいかない。私は彼女のためにも、先に進まねばならない。 「あ...あんっ.....あぁあ....あぁんっ.....」  その日、私は彼に上になって自分で私を迎え入れるように命じた。彼は恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、夢中で私を貪った。可愛い.....。恥じ入りながら私を味わい尽くそうと締め付け絞りたててくる。下から彼を激しく突き上げながら、私はその痴態を味わい、酔い痴れた。  私のモノを奥まで咥え込み、秘肉を絡みつかせて喘ぐラウルは誰よりも淫らで愛らしく、私の嗜虐心を煽りたてる。私は思わず感嘆の息を洩らした。 「お前の内は熱いな....。それに私のモノにぴったりと絡みついてるぞ。そんなに美味そうに咥えていて、まだ意地を張る気か?ん?」  両手で彼の腰を掴み、思うままに抉り、突き上げた。彼に煽り立てられた私の欲情が、情念が、彼の腹の奥で滾り猛り狂う。ただ一つの愛、恋い焦がれて止まぬ者の肉体の奥深くに所有の証を刻みつける。  彼のモノをきつく握り、ブジーを入れたまま、俺は敏感な部分を容赦なく擦り立てると、彼は大きく身を震わせて、達した。  だが、私はなおも彼の腰を抑えつけ揺すぶり続けた。.....彼は駆け巡る熱に身悶え、よがり狂い、  やっと逐情を許した頃には、彼の意識は飛ぶ寸前だった。  私は愉悦の波間に漂う彼を抱き寄せ、自分の身体の下に組み敷いた。 「......お前は私のことだけ考えていればいい。......邑妹(ユイメイ)は私達が見つけ出す。お前は余計なことを考えるな」  愛しい恋人の火照った耳許に言い聞かせるように囁く。 「そんな......そんなこと言っても...」  彼は真相は知らない、知られてはならないのだ。ラウルは私だけを見、私の事だけを考えていればいい。  私は粛々と次の段取りに移った。 「この部屋には24時間、監視カメラとボイス-レコーダーが設置されているのは知ってるな」  耳許で小声で囁く私に彼は小さく頷いた。彼の安全を守るためであり、彼を奪い取ろうとする者を近寄らせないための手立てを、彼は好みはしないが、次になお声を潜めて私が口にした言葉に目を向いた。 「.....つまり、他の誰かが何かを仕掛けても一目瞭然ということだ」  一気に正気を取り戻し、大声を出しそうになる彼の唇に人差し指を立てて、私は続けた。 「マイクロカメラが仕掛けられている。盗聴器も」 「......んな、誰が?」 「メイドのひとりが掏り変わっていた。.....もぅ抑えたがな」  私はラウルの背後の小物入れをそっと指さした。崔の手先のメイドがさりげないつもりで仕掛けたものだ。監視カメラに辺りを窺いながら侵入して、置き去る姿を記録していた。  ラウルの部屋には決まった者しか入らせない。メイドは一番勤めの長いメイド頭にしか入室を許していないのだ。 「お前の素晴らしい姿を見て、あいつは今頃、頭から火を吹いてるだろうな」 「煽ってどうするんだ...」  私は私の耳許で抗議する彼の背中を撫でて宥め、微笑み、囁いた。 「誘き寄せる.....」  そして、はっきりとした大きな声で言った。隠してあるつもりの盗聴器とラウル自身にも明瞭に届くように。 「結婚しよう。.....何処かの小さな教会で式を挙げよう。田舎の小さな教会で....」  彼は呆れてあんぐりと口を開けた。私は盗聴マイクを視線で示した。彼は慌てて返事をした。おそらく芝居だと思ったのだろう。私は至って本気だが。 「は、はい.......」  言った後で、ラウルは私の内心の意図に気付いたらしく、私を上目遣いで窺うと、きっ....と睨んだ。 『嬉しそうな顔をしやがって......マジか?!』  耳許に、マイクに入らないよう圧し殺した声で彼が抗議する。だが既に遅い。彼は承諾したのだ。 『勿論』  私は再び彼をベッドに押し倒し、たっぷりとプロポーズを受け入れてくれた礼をした。  そして私は早急に計画を実行に移した。ラウルに外出の厳重禁止を命じ、中国人の女性の仕立屋に部屋(コテージ)をあてがい『婚礼衣装』の製作を依頼した。  彼女はーラウルの育ての親、趙夬の実の息子、趙祥揮の恋人だった女性だ。趙祥揮は、中国人民政府のあり得べからざる蛮行、天安門事件で生命を落とした学生の一人だった。  ラウルもそれとなく遠回しにその話は聞いていたのだろうが、彼女の話には相当驚いたようだった。   「まさか、あの事件に崔も絡んでいたのか?」  夜遅く、彼との交合をひとしきり堪能して、煙草をふかす私に彼が訊いた。 「それはわからんが....」  私は煙草を灰皿に揉み消して言った。 「崔は以前からあの国の上層部と深い繋がりを持ってる.....商売のいい得意先らしい」 「得意先?.....何の?」  言い掛けて彼は口をつぐんだ。 「臓器......か」 「そうだ。....あの国の闇はあいつには好都合なんだろうさ」  私にとってもそれは忌々しい事実だ。あの国の倫理観は、キリストの教えを受けた我々には理解出来ない。日本で育ったラウルにとっても同じらしい。 「やはり、崔は潰すべきだな」  きっぱりと言い切る彼に私は深く頷いた。 「でも、知らなかった.....オヤジに子供が、いたなんて...」  溜め息混じりに彼が呟く。私はその耳を軽く噛んで揶揄った。   「嫉妬か?」 「違う.....会ってみたかった。俺には兄弟はいなかったから.....いてっ!」    私は予想外の彼の言葉に少々苛立ち、胸を指で軽く抓った。 「何すんだよっ!」 「お前には私がいる。他の男の事など考えるな」  真剣に抗議する私に彼は大きく溜め息をついた。仕方あるまい、私は嫉妬深いのだ。  しばらく後....、吉祥の織の入った純白のチャイナ-ドレスの結婚衣装が出来上がった。金糸で襟や袷を縁取らせ、背中にも前にも咆哮する金色の獅子を刺繍させた。  私の妻、ミハイル-アレクサンドロフ-レヴァントの妻である狼小蓮、すなわち、私の最愛のラウルに最も相応しい衣装だ。 「素晴らしいだろう?」  私の傍らで、そのドレスを眺めて、彼はこの上は無いだろうと思うくらい盛大な溜め息をついた。 「頼むから、正気に戻ってくれ....」  生憎だが、それは無理だ。
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!

605人が本棚に入れています
本棚に追加