(二)

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(二)

     (二)  広いテーブルにひとりぶんの食器類は、見慣れた光景とはいえ、どうしても寂しさを拭えない。  お嬢さまの席の対面に座るはずのご主人夫妻の姿は、今夜もない。  おふたりが夕食の席を彼女と一緒にするのは、週に一度あるかないか。  それはお嬢さまの幼少のころから続く。  事業家のおふたりであれば致し方ないことかもしれないが、そんな家庭環境でよく道を踏み外すことなく、お嬢さまは素直にお育ちになったと思う。  ずっとあなたがいてくれたから、と、事あるごとにおふたりは私に謝意を表してくださる。だが、謙遜からではなく、そうではないと思う。  それは、両親が自分に対して、決して無頓着なわけではない―――と感じとれる聡明な感性が、幼きころからお嬢さまには備わっていたからではないか。  ご夫妻は時間の共有のかわりに、多大な小遣いや物をお与えになる。それがいいことなのか……。疑問はあった。しかし、それ以外の愛情表現が見あたらないおふたりの苦悩を推し量ることも、難しくはなかった。  なににしろ、それらの情愛を浪費しないことも、彼女の誠実さを表している。  その贈物の中に、あれがあった―――。  ずいぶんと値が張ったと、嬉しそうな苦笑を見せた旦那さまの顔を今でも覚えている。  ―――幼き日のお嬢さまへの誕生日プレゼント。  最近、娘は妹がほしいという。しかし、お互いの仕事の忙しさを考えると、つくれそうもない。だから。―――そうも彼は継いだ。  その妹を、お嬢さまは大変可愛がってらっしゃる。―――が、私はいつまでたっても好きになれない。  掃除などでお嬢さまの部屋に入ると、見なければいいのに、つい目をやってしまう。  あれはなぜかいつも、なにかを企んでいる―――そんな目をしているように思えて……。  今夜に限っていえば―――さっき垣間見た横顔は、まるで出窓に向かってなにかを一心に想っているようにも感じて……。それは祈りのようにも……。  アンティークドール。  相当の年代物らしいのだが、それにしてはいつまでも古色を感じさせないところが、薄気味悪さを助長する。  その怖気が、怖いもの見たさという意識を働かせてしまうのか……。 “カチャン”  落としたナイフの皿にあたる音が、意識を引き戻した。 「いけない……」  小さく声に出し、一度頭をふると、キッチンへ取って返した。
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