(三)

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(三)

     (三)  彼女は私の視界から消えると、壁の調光ダイヤルをひねったようで、シャンデリアの光量が絞られた。  出窓に映っていた室内は消え、星空がかわりに浮かびあがった。  再び出窓の前に現れた彼女の後ろ姿は、上下スウェットでもわかる見事なスタイル。薄明かりに艶やかな光を反射させる黒髪も、友人女子たちから羨望の眼差しを受けているはず。  その視線は私も例外ではなく―――。  このままでも、という気持ちを持っていたことはあった。しかし、歳をますごとに磨かれていく彼女の美しさが、自ずと決断させていた。  「あっ、見えた」  あがった彼女の声が、いっときそれていた私の意識を夜空に向けた。  窓外にひと際輝く楕円。  尾を引く。  まるで音まで聞こえてきそうな近さ。  その音は、涼やかな、まるで鈴の鳴るような……。  心中で手を組んだ。  そして声にならない声で祈る。 “彼女に、どうか彼女に―――”
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