7人が本棚に入れています
本棚に追加
(四)
(四)
「……お嬢さま」
久江さんの声で意識が戻った。
「どうなさいました?」
ふり向くと、開いたドアから差し込む廊下の明りを背に、彼女は立っていた。
「具合でも……」
「いえ、あの彗星を眺めているうちに、そのほかの星たちにも見とれちゃって……。こんなにしげしげ眺めるの、久しぶりだったから」
「そうですか……。そういえば今夜でしたわね。七六年に一度とか……」
陰になっている表情が返した。
再び窓外に目を戻すと、いきなり室内に明りが戻った。
瞬時に夜空は消え、私の顔が窓に映る。そして同時に浮かんだのは、壁の調光ダイヤルに手を添えている久江さんの姿。
違和感が走った―――。
彼女が許可なく、部屋のなにかに触れることはない。掃除に入るときだって、朝、一言断りがある。しかも、今私は星を見ているといったのだ。
ガラスに映る彼女はそして、ソファーの上にある人形をじっと見つめているよう……。
「どうしたの?」
再度ふり返り、覗き込むようにして問いかけると、びくっとした彼女は顔をよこした。
「いえ……。お食事のご用意が整いましたので、お早めに。冷めますので」
いうと、伸ばした背筋を私に向けた。
最初のコメントを投稿しよう!