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しかしそんな想いは、お嬢さまに対する憧憬がやすやすと脇へ寄せた。
それよりも―――、
すぐそばにいて、寄り添い、語り合える、そんな位置にいたかった。お嬢さまの髪のいい香り、甘い吐息を開いた鼻孔で感じ、柔らかな肌の感触を、磁器ではない同じ柔らかさの肌で感じたかった。
その願望が、今叶った。
湯気を立たせる手もとの料理に落としていた視線をあげると、窓に映った喜色の表情へ囁いた。
「さあ、お嬢さまを呼びにいかなければ」
そして―――、
ごめんなさい。あなたに恨みがあるわけじゃないの。どうしても戻りたくて……。
と、今後七六年間、動くことのできない久江さんに謝らなければ。
―――この家で一番彼女の身近にいることができて、一番長く一緒にいることができるのは、あなただったから……。
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