2人が本棚に入れています
本棚に追加
はじまりは入学式
桜が咲き誇る4月の午後。空は雲ひとつない青空が広がっている。
本日、私立緑陵学園高等部は入学式。在校生のいない校庭は、真新しい制服を着た生徒達で光り輝いている。緑陵学園の特色のひとつ、白地で襟に青いラインが入ったブレザータイプの制服が太陽の光を乱反射させているのだ。はっきり言って、眩しすぎる。
『新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。講堂の準備が整いましたので、新入生の皆さんは講堂の各クラスの椅子に前から順番にお座りください。ご父母の皆さんは生徒の後ろの父兄席に順番にお座りください』
講堂に据え付けられていたスピーカーから、優しそうな女性の声が響き渡った。
「お母様、早く、早く!」
校庭の隅から、可愛らしい声が聞こえてきた。あどけない顔立ちを真っ赤にして、耳の上で2つに結わいてある天然パーマの髪をウサギの耳の様に跳ねさせながら走っている。
「秋羅。ずいぶん楽しそうね」
母親の声に、肩ごしに振り返った生徒の名は綾小路秋羅。高等部から緑陵学園に進学した新入生だ。
「新しい生活が始まると思うと嬉しくて! ほら、お母様も早く行きましょう」
秋羅は足を止めずに母親を手招きする。
「きゃあ!」
前方不注意。
秋羅は前に立っていた生徒にぶつかった。ソバージュがかったこげ茶色の髪が片目を隠している、一見不良のような女子生徒だ。秋羅は慌てて頭を下げた。
「ごめんなさい!」
「あ、こちらこそ。ごめんね」
ぶつかられた生徒は笑顔で肩をすくめた。
「あなたも、新入生?」
「はい。1-Dの綾小路秋羅と申します」
「あ、同じクラスだ。私は石田早苗。よろしく」
見た目と違い、随分とフレンドリーな早苗が右手を差し出す。秋羅はその手を両手で包んで深く頭を下げた。
「よろしくお願いいたします」
「同級生なんだから、そんな堅苦しくしないで」
「そう言えばそうね。よろしく!」
秋羅と早苗は笑顔で顔を見合わせた。
「前から順にって事は、席順は決まってないよね。一緒に座ろう!」
「うん! お母様、先に行っていますね」
秋羅が振り返ると、秋羅の母親は早苗の母親と挨拶を交わしていた。
「ほら、早く行こう!」
早苗が秋羅の腕を掴む。秋羅は頷くと2人で講堂に走っていった。
最初のコメントを投稿しよう!