播種

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整った顔が勿体無いが、職務故の堅さなのだろう。飛び降りたノム青年が、合流した他の警備員と共に拘束した女を運び去るのを眼下に覗き見送った。 全員の姿が消えた後に、ふと空を見上げれば既に幾つもの星が出て瞬いている。 「どこから来たウィルスでしょうね」 溜息の様に吐かれた言葉に再び横を見ると、彼女も空を仰ぎ見ていた。 「ノムは良くやってくれます」 その声に振り向けば、中年警備員が腰のホルスターに麻酔銃を収めた所だった。連続では撃てない武器を選ぶのは、まだ変異体と共存できると信じているからか。 「彼はヒーローだが、悪く言う連中もいるのだろう」 「はい。残念ながら陰口は絶えませんね」 「厄介な事だな」 親世代から子へと、生殖細胞へ侵入を果たし内在化したウィルスは垂直伝播する。そうして細胞分裂と共に世代を増やし、発現する能力でもって宿主に病をもたらす場合も有れば進化の原動力ともなる。 更には種としての壁を超えて遺伝子を水平伝播させるウィルスの特性。それは時に別種の生物の遺伝子をも引き連れて伝播させる。元々なかった遺伝子を組み込むのだと聞けば、自然界で容易に遺伝子組み換えが起こっているのだと知って驚く人は多い。
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