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しかも、だ。ヘルズ・ホープ・ウィルスは人の意識を読み取り、挿入させた遺伝子群から任意の生物へと宿主の姿を変容させる能力を持っていたのが問題だった。
個々での振る舞いはウィルスに見えるが、群体になり、宿主内で一定の数を保つ様になると感情の無い知性を持つ。まるで時空を超えて演算能力を持つ量子コンピューターの如く。
ウィルスが機械的だと言われる事はあったが、あれ程まで機械的振る舞いを見せるのは初めてで、オマケに人の意識と繋がり欲する力を顕現させるのが厄介なのだ。
欲しい遺伝子を取り込めば、自由に発現させ得るのだから。
「ノムの親御さんは、常人に殺められているんです」
「変異体ではなく、か」
「はい」
「では私は、変異体からすれば狡猾な敵だな。執拗にここが狙われる訳だ」
実際、私は利用している側の人間だ。人らしさを訴え敵対する者達を排除する為に、こちらと志を同じとする変異体の協力を巧妙に仰いだのだから。
同種同士で争わせ、旧人類への被害を少なくする為に。
「ですが、教授の研究は一つの望みです」
心を砕いて、決してこちらの行為を悪く言わない態度には感謝の念しかない。
「毒で毒を制するやり方だ」
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