播種

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「地上にもたらされた病は、ヘルズ・ホープ彗星に潜んでいたウィルスが原因と特定されているのでしょう」 既に陽も落ち、薄暗い廊下に悲鳴に似た甲高い声が響き渡る。 ヒステリックになった女性の声は苦手だ。 ほんの半世紀程前に起こった新型ウィルスに因るパンデミックとは違う。 今問題になっているのは地球在来のウィルスではない。ヘルズとホープ、二人のアマチュア天文家が同時に発見した彗星。それが砕け散り盛大な天体ショーを披露した後に知られた事実。流星に含まれていた空からの種子(ウィルス)は、地上の多くの生物細胞に侵入する能力を持っていた。 感染後は直ぐに一時的な休眠期に入り検出は難しい。為に、最悪なのは感染から発症が認められるまでに長いタイムラグがあった点だ。体内に侵入したウィルスは宿主の細胞内でこそ増えるが、初期は容易に他者へ感染らなかった点にも油断した人類が悪い。 問題は宿主の生殖細胞へ選択的に侵入する事だ。変異体は、確かに繁殖サイクルの短い生物から現れていたのだから。 今では人からも産まれ、世間からは忌避されつつある変異人類種。
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