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数の少なさ故に、今の内に根絶やしにしろと過激な意見もあるが、最早それは対処療法的な手段に過ぎない。既に多くの人にも感染しているウィルスは、生物の遺伝子の中から除去できない状況に陥っているのだから。
虱潰しに遺伝子検査をし隔離せよとの声もあるが、それも荒唐無稽。空からのウィルスは結晶化し常に身近にあると調べも付いている。
私すら既に感染している可能性が高く、躍起になって変異体を倒せと叫ぶ輩の中にも感染者は間違いなく存在するだろう。
「解りきっている事実だ。だが人権団体を二分化させているウィルスを倒す事は不可能だぞ」
振り返り、施設内に入り込んだ女性を睨む。
変異体を人と認めよと叫ぶ側と、余りにも好戦的に姿を変容させ人の成りから掛け離れた命を別種に定め、危険過ぎる獣だと叫ぶ側。どちらの意見も正しい。
人から産まれたのは事実。そして好戦的に挑み掛かる性質を持つのも。
病原菌の様に、根絶やしにできると勘違いして貰っては困るのだが。
かつて天然痘を完璧に地上から排除した時と同じ栄光を人類が掴む日は来ない。
半世紀程前の、人の行き来がグローバル化した中でのパンデミックは経済面でも死者数でも大きな打撃を人類に与えたが、それを上回る人々の努力が抑え込みに成功している。
国境も立場も超えて、共に闘う意志を持つ一つの生命と化した人類の協調性の前に。
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