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ウィルスは自己増殖できないが、生物の細胞内で増える能力を持つから厄介なのだ。転写RNAを拝借し自己を複製する。それだけならば可愛いのだとすら言えた。生物細胞内に入り込んだウィルスは、時に生物の設計図内に己が遺伝子を巧妙に組み込んでしまうのだから。
産まれ来る次世代は、言わばウィルスとのハイブリットだ。
故に、新たに内在化したウィルス遺伝子がどんな働きをするかは未知数。
それに宇宙由来のウィルスは、人の予想を遥かに超えていた。
人が想像する物事は全て存在するのだとするマルチ・バース理論の一つ、想像現実論でも引っ張りだし、馬鹿げた発現を見せ付ける獲得能力の説明でもすれば楽なのか。
あれは確かに進化だろう。ただし性急過ぎる。
ウィルスが太古の昔から細胞を持つ生物に寄生し、その遺伝子を宿主の遺伝子へ潜ませて来た事実は二十世紀の頃から知られていた。だがヘルズ・ホープの後に発現したウィルスは宿主との共生の在り方が異質過ぎるのだ。
あれ程貪欲に数多の生物細胞に侵入し、融合を果たすウィルスを私は知らない。
即座に人を病にしていたなら、危険性は解り易く排除する為の努力も行われただろう。しかし、人の人たる部分から揺るがして来たウィルスは厄介な選択肢を突き付ける。
人種差別の根強さが残るのに、新たな人類との共存は有るのかと。
姿形を容易に変異させてしまう人類と。
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