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振るわれた暴力の差をまるで問題にしていない。人を超えた力を持つ者が、自身の力に溺れて他者の生を奪っている現実を。
無造作に、無作為に、自分より弱い人々を殺戮した恐るべき能力を。
「私達は新たな人です」
中年警備員の腕を振り解いた女はその体を変容させた。
訓練された警備員が腰のホルスターから銃を取り出すよりも早く動き、距離を一気に詰めて鋭い爪の伸びた腕を振りかざす。だが、私と彼女の間には若手の警備員がいた。
変容した女性と同じウィルスに感染している青年が。
「ノム、変身を認めるっ」
遅れ、弾き飛ばされた女性警備員の声が響く。
共に変容の素体に選んだのは俊足を誇るチーター。反射速度は女を上回っている。訓練を受けているだけに青年の方が無駄もなければ的確な動きをする。
窓ガラスを突き破る形で中庭に放られた女は俊敏な身のこなしを見せ、見事四本の脚で地面に着地した。その姿は着地と共にまた別のものへと変わる。
手足の数など無視して背から生え広げられる大鷲の翼。身体はチーターのままだから、幻獣グリフォンが現れたと錯覚しそうだ。
獣の咆哮が中庭に響く。
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