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あと五分で日付けが変わり、今日が終わる。ラッキーデーだった今日が終わってしまう。
今朝のニュース番組の占いコーナー。『山羊座のあなたは十年に一度のラッキーデー、好きな子に告白すれば必ずOKされるでしょう』なんて言われて有頂天になり、学校で気になるあの娘にアタックしようと何度も機会を窺っていたのだが、勇気が出ない。
ついにこんな時間になってしまい、スマホでダイレクトメッセージを打ちながら、それでも送信ボタンが押せずじまい。
でもでも多分、楚々とした彼女もきっと僕に気があるはず、なんだよなあ。
だって、いつもやさしく微笑みかけてくれるし、率先して挨拶してくるし、偶然手が触れても嫌がらないし、気が付けばよく目が合ったりなんかして。
と、悩んでいるうちに日付が変わるまであと一分。
なんて考えているともうあと残り三0秒。
そしてとうとうあと五秒。
「ええい、ままよ」
僕は送信ボタンを押した。
押してしまった。
恥ずかしい。後悔の念がこみ上げてくる。
ダメだったらどうしよう。
明日学校でどんな顔して会えば。
返事は……
返事は……
音沙汰ない、返事が来ない。僕はベッドに寝転びながらスマホの画面を長い時間見つめ続けた。
そしてそのまま夜は更け、ついうとうとと……眠ってしまった。
窓の外から雀の鳴き声。気が付けば明るくなっていた。朝だ。
僕は起き上がるとスマホを捜した。ベッドサイドに落ちていたそれを拾い上げると画面には返信アリの表示。あわててロック画面を解除すると、そこにあった彼女の返信は……
『どーしてもって言うなら付き合ってあげてもいいよ』
僕はあわてて返事を打った。
『どーしても』
今度は三0秒後に返事が来た。
『じゃあ、付き合ってあげる』
やったー。うれしー。自然と顔がにやけてしまう。
早速ベッドから起き上がると、部屋を出た。
ダイニングで家族と朝食を摂る。点けっぱなしのTVが今日の占いコーナーに変わった。
『山羊座のあなたは、今日頼まれ事をOKした相手に一生振り回されるでしょう』……だって。
まあ、それもいいかと思いつつ。口いっぱいに頬張ったトーストを牛乳で喉に流し込んだ。
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