第一章 アレク、異世界で奮闘す ビート

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第一章 アレク、異世界で奮闘す ビート

日本は衰退した。  人口は減り消費社会を支える企業の殆どが消え去り、最先端科学はいくつかの拠点を残すだけとなった。  大型の獣が溢れ、人類はその対処に追われている。  数多くの進化した獣は『魔獣』と呼ばれた。  日本だけではない、日本はまだ良い方で海外はもっと酷い地獄らしい。  俺の名は三田 亜礼久(サンダ アレク)。    小さい頃はふざけて『アレクサンダー』なんて呼ばれたが、今は普通にアレクって呼ばれている何処にでもいる男子高校生だ。  残念ながら成績も運動神経も普通の範囲に収まる余り目立たない方かな。  今の時代、一般男子高校生にとって将来の選択肢は余り残されていない。  優秀な技術者になって生産や管理側になるか、増殖した魔獣を倒す為の撃退兵士(ビート オフ ソルジャー)、通称『ビート』になるかのいずれかだ。  まぁ自衛公務員なんだけどね。  俺達のような成績が中から下の『仲間達』(笑)に選択肢などなく、みんな『ビート』になるしかない。  学校では週に何度か『ビート』の授業もあるが、そんなに難しい事ではない。    パワードスーツとレイガン、そして相棒となるA.I.のロボットが補助してくれるのでいくつかの注意事項を守れば危険な事などない。  魔獣に殴られようが踏み潰されようがバッテリー切れの心配のない核エネルギーで動作するパワードスーツ、通称『Pスーツ』は傷一つ着かない。  強化筋肉を模倣して作られたこの素材がその衝撃を軽減してくれるからだ。  耐熱、耐寒、耐衝撃で感電を防ぐ絶縁体でもあるらしいが通常時はとても薄く触られれば感触が裸のように伝わる。 色はまだ黒だがレベルが上がると色が変わっていくらしい。  俺はこいつに『Pちゃん』ていう名前を付けた。  同じくバッテリーの心配のないレイガンは銃口を絞った遠距離と広範囲に照射可能な便利なものでこれは可変に切り替えられる。  モードがS、K、G、Xとあって、それぞれ衝撃モード、殺傷モード、捕獲モードだが、このXに切り替えるのはまだ学生なので禁止されている。  まぁこのモード3種類だけでも充分過ぎる程凄いからいらないけどね。  広範囲にすると影響の及ぶ距離が短く、絞った遠距離の場合は月まで届くらしい。  矛盾の鉾楯(ほこたて)で言えばこのレイガンでPスーツや相棒のロボットを撃っても一切傷つける事は出来ない。  誤射の心配がなくてとても安心だ。  俺は銃に『マイケル』と言う名前を付けた。  いやこれなんとなくだから余り突っ込まないで欲しい。  そして最も頼りになるのがこのA.I.ロボットだ。  ロボット三原則によって俺達に危害を加える事はなく従順に命令をきく。  魔獣の攻撃など殆どをこのロボットが防いでしまい全く俺には当たらない。  ロボットはいくつかのモードが選べるが、俺達男子高校生に人気なのはやはり女子高校生タイプだ。  みんな好みの設定にしている。  しばらくすれば登録者の好みに合わせてA.I.学習して成長する。  俺は初期設定を『元気な幼馴染』設定にしてメイっていう名前を付けた。  好きなアニメの名前だから、これも突っ込まないでくれると助かるよ。  しかし、フトシのロボットは何で女子小学生の姿をしているんだ?  お兄ちゃんって呼んでるぞ。フトシは妹いないだろ。  授業ではR18モードの解除はさせて貰えずプロテクトがかかっている。  18歳になったやつもいるけど卒業して『ビート』の業務につけば解除が可能になるそうで今からあんな事やこんな事を妄想して楽しみにしている。  まぁ健全な男子高校生としては普通だからね。  妄想に関するクレームも勘弁して欲しい。  この『無敵セット』があれば、はっきり言って『魔獣』に対してはその名の通りほぼ無敵だ。  増え続ける魔獣を減らし人類を守る為に戦うんだ。  やりがいもある。  『ビート』の給料はそんなに良くないけど、それなりに生きて行けるんじゃないかと思う。  技術クラブの連中はR18モード解除に挑んでいる。  でも俺達は『ビート』の4級免許も取得して、後一年足らずで卒業だから焦らなくてもお楽しみはもう目の前だ。  俺達の『ビート』の授業を担当するのは紅一点の飯田橋 英玲奈(エレナ)博士だ。  『無敵セット』は博士のお兄さんが発明したらしく、今では飯田橋博士が日々怪しい改造をして俺らがテストさせられている。  噂では100歳位の魔女なのだそうだがどう見てもピチピチのお姉様だ。  完全にどストライクだから俺は空振りしてもバットを強振したいが、ちょっと怖くて今の俺ではすぐには無理そうだけどね。  今日も男子高校生にはちょっと刺激が強めの服装だ。  博士はこの地域の多くの『ビート』達を統括担当する優秀な最先端科学者だ。  地域の『ビート統括担当』は『ビートマスター』と言う。  俺達は飯田橋博士と先端のインカムで繋がり、個人、グループ、全員といつでも会話可能だ。  飯田橋博士の色っぽい声を聞きたい為にふざけて用のない会話をした同級生はすぐさま内部からの電気ショックで気絶したらしい。  いや、みんな、博士には逆らわないようにしような。  何度かの実戦を繰り返したが『無敵の無双』を楽しみ、レベルが5まで上がった。  レベルが上がる際に小さくファンファーレが鳴るが博士の趣味で昔のゲームを模倣したものらしい。  捕獲や退治して魔物の強さや数でレイガンがカウントしてくれるのだそうだ。  レベルが基準まで達すると3級、2級と級が上がる。    級が上がればそれだけ給料も増えるから、頑張ればそれだけ稼げるようになる。  頑張れば上級の給料も夢じゃない。  今日も野外実習で担当する地域の魔獣を退治した。  女子高生メイが(ロボットだが)『やったー』と俺に抱きついて頬にキスをする。作業が完了したと言う事だ。  R18モードではないと言ってもこれくらいは、頭の中がエロい事で一杯な俺達男子高校生を上手くA.I.学習してくれているようだ。  この時の感触は人のそれと全く同じなのだそうだが、俺達は生の女性の胸の感触なんて仲間内では誰も知らない。  みんな笑顔で感激して楽しんでいる。  嬉し過ぎて泣くなよタカシ。 ◇◇◇◇◇  そんなある日の朝、かあちゃんの作ってくれた味噌汁を飲んでいると飯田橋博士から緊急の招集がかかった。
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