ブラックミオナの受難

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ブラックミオナの受難

 宿に向かい歩いていると一瞬鼻をつく臭いがしたがすぐに臭いは消えた。 「メイ、やっぱり一瞬だけどなんか臭いしたよね」 「うん、でもさっきと臭いが違うわ。どういう事かしら」  まぁ今はもう臭いも消えてるから考えても仕方ないか。宿に向かおう。 ◇◇◇◇◇  宿に到着すると入口の脇に女の子が立っていた。  耳が長いウサ耳の可愛らしい黒のワンピースの少女だ。可愛らしくスカートがヒラヒラしてる。 『レオーネ』にもいたけど、ウサ耳の種族がいるんだね。 「お兄ちゃん達もこの宿?」 「うんそうだよ。えーとお嬢ちゃんもここかな?」  少女は隠れて少しニヤリとした。 「私と一緒ね。私はミオナ。ミオちゃんでいいわ」 「俺はアレクで」 「私がメイよ」 「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ガムールの宿ってやばいからあんまり長くいない方がいいよ。物が無くなったりしちゃうから気を付けてね♪」 「えっ! そうなの? いい情報をありがとうね。メイ、気をつけよう」 「本当助かるわ。ミオちゃんありがとうね」   「私、この辺りの事は詳しいからなんでも聞いてね」 「ハハハ、ありがとうね。困ったらお願いするよ」  俺達は一緒に宿屋に入った。 「どうする先にお部屋を取る?」   「ううん、後でいい。お兄ちゃん達がお先にどうぞ♪」  俺達は先に受付した。ここの主人らしいけど、なるほど、ミオちゃんが言うようになんか人相が『アレ』な感じだ。  いやイメージで人を判断してはいけないだろうが、こういった事前情報は大事だからな。 『何か貴重品を預けるか?』と言われたが辞めておいた。  安い宿だが3日分先に払いお願いした。一階の奥の部屋だ。  俺達はミオちゃんにバイバイをして早速部屋に向かった。 ◇◇◇◇◇  ミオの顔つきが変わった。 「おい! 今の二人の隣の部屋だ!」 「いや、そ、そこは予約が入ってまして、、、」  ミオが大きなナイフを顔の前に出し少しだけ抜きながらニヤリとすると   「ほう、その予約した客にお前が会えるといいな」 「ひ、ひぃぃ〜! い、今空きました。こ、こちらを、ど、どうぞ」  宿の主人が震えた手で鍵を差し出す。   「最初からそうしろ。3日分だ。二人に話したら判っているな!」 「う、うちは、こ、個人情報もしっかりしていますから大丈夫ですよ」 「よし」  ミオは部屋に向かい、部屋に入ると耳を外した。 「フー、まだ色々とあるわね」 ◇◇◇◇◇  俺達が部屋に入ると古い部屋の臭いがした。 「メイ、俺達って異世界(こっち)の事まだよく知らないよね」 「そうね、エギールの館は和風だから何も不便はなかったけど普通はああじゃないんじゃないかしら」 「ミオちゃんもこの宿ヤバそうって言ってたし、結構注意しなくちゃだよね」 「まぁアレクの年齢なら何事も()()よ」  ()()か。ゴクリ。 「ま、まぁそうかも。頑張るよ。ここは食事は別みたいだからちょっと早いけど夕飯でも食べに行こうか」 「いいわよ、でも異世界(こっち)のご飯が口に合わなかったら私が作るわね」 「うん、ありがとう。でも異世界(こっち)の普通のも食べてみたいよね」 「そうね、それも経験だわ」 ◇◇◇◇◇  俺達は一階にあるあまり綺麗そうじゃない食堂に入った。  確かに何事も経験だ。  あまり人はいないが、奥のテーブルでさっきのミオちゃんが手を振っていたのでそのテーブルに行き席についた。 「お兄ちゃん達一緒に食べよ♪」   「いいよ。こっちの食事とか教えてね」   「簡単だよ。パンだけだから」   「えっ!他にはないの?」   「キノコのスープがあるわ」    マジか! ミカちゃんが言ってたのはギャグじゃなくて本当なんだ。  一応メニューがあるぞ。メイに読んでもらう。 「パン、黒パン、塩パン、小パン、硬パン、キノコのスープ、キノコと卵のスープ。アレク、お食事はこれだけよ。後はキノコの紅茶とアルコール類ね」    うっわー。参ったな。近くに一人だけいたエルフのおじさんを見ると、めっちゃでかいパンをスープに浸して食ってる。まさかあれが普通の大きさのパンか? メイさんもうなんか笑ってるよねw。  あまり迷いようがないな。確かに笑うしかない。罰ゲームっぽいな。 「お姉さん! ここ注文お願いします」 「はいはい、何にする?」   「じゃあ俺は小パンとキノコと卵のスープにしようかな」   「悪いね卵は品切れだ」 「じゃあスープを普通のキノコのスープで」 「私は硬パンとキノコのスープがいいわ」   「あいよ。ちょっと待ちな」  ・・・ 「タカサックの栄えた方に行けばもう少し美味しいのが色々とあるよ」  ミオちゃんが心配そうに言う。 「あはは、そうだね。でもこれも経験かな」  大きなパンとスープが直ぐに来た。多分スープを入れるだけだよなw。  一口飲むとスープには胡椒が沢山使われているようだ。少しからい。  パンが硬かったのでスープに浸けながら食べた。 『食べ物に文句を言うんじゃありません』とかあちゃんはよく言うが、これは結構厳しいかな。 「お兄ちゃん達は何しに来たの?」 「俺達? 俺達はこの辺りに出るって言うゴーストを退治に来たんだ」   「悪臭ゴーストの事?」 「そうだよ」 「すごいんだねお兄ちゃん達。でも辞めた方がいいんじゃないかな。国もタカサックの保安局も解決出来なくて、前に魔法で嗅覚を遮断して挑んだ人がいたけどその後感染症で死んじゃったんだよ」  わー、マジか。と言う事はやっぱり物質的に何かいるし、臭いを遮断するだけじゃダメなんだな。  ミオちゃんも心配してくれてるんだね。 (イヤ、ただ早く帰って欲しいだけです)  俺も正直少し不安になって来たがメイは話を聞いてもニコニコとしていた。  ・・・ ◇◇◇◇◇  ミオちゃんに聞いた通り、フロントに行ってお金を払い桶のお湯と貰い手ぬぐいを二つ借りた。  ミオちゃんが言うには『使ったら窓からお湯を捨ててドアの外に出しておけばいい』らしい。お風呂ってないんだね。  俺達が桶を持ち慎重にあるいて部屋に戻るとメイが後を向き『ガー』っと音がしたかと思うと少し大きめのコップを手渡された。 「これはさっきの食事で足りなかった栄養素を補うスムージーよ♪」 「よく冷えてるね。美味しそうだなぁ」 「過剰摂取したもののデトックス効果もあるのよ」  メイさんすごいな。でも薬とかこの前の青汁みたいな味じゃないだろうな。  飲んで見るとかなり美味しかった。俺の好きなモックシェイクにも似ていた。  プハー!  俺達は服を脱ぎ、お湯で身体を拭いた。結構歩いて汗もかいたけど頭を洗うにはもう一つ桶が必要そうだから諦めた。ちょっとめんどくさい。  よく見るとこの部屋ってツインじゃなくて大きなベッドが一つだけあるダブルだった。  俺もPちゃんを脱いでベッドの上に座ったが、この状況は少し危険な香りもするなw。 「今日は沢山歩いたから疲れたでしょ? 私がマッサージしてあげるわ」 「えっ俺マッサージとかしてもらった事ないからいいよ」 「じゃ私をマッサージする?」 「メイは疲れとかないでしょ」 「アレクの為によ♪」  と言い両方の見事な胸を持ち上げる。 「い、いや、やっぱりメイにマッサージしてもらうおうかな」  メイのマッサージはおそらくかなり上手なんだと思う。色んな所がかなり気持ちよかった。  一通り終わると 「お客さん、この後スペシャルコースがあります。パンツをお脱ぎいただけますか?」  と言いながらメイがまた胸を持ち上げたので俺にも意味が判ったが、大分眠くなってきていたので丁重にお断りして『もう一緒に寝よ』と言うと『うん』と答えメイが灯りを消し一緒の布団に潜り込んだ。  俺はマッサージの気持ち良さとメイの温かさと柔らかさで直ぐに眠りについた。 ◇◇◇◇◇  壁際の隅から、気配を消す魔法を使い続け、やや疲労したミオが壁際から離れた。 『やはり聞いた通り仲が良くてちょっと羨ましいわね』  ミオは消音魔法と鍵を開ける魔法を使いドアの鍵を静かに開けて部屋を出た。  わっ!  バシャ!  ミオが桶に躓き、桶にお尻が挟まってしまった。  ミオのお尻はびっしょりと濡れ、一つため息をつくと諦めたようにお尻を外そうとしたが外れなかった。えっ! 『もう! 残ったお湯は窓から捨てろって教えたのに忘れたのね』  またお尻を抜こうとするが抜けない。  ミオはパンツを履いてなかったのでワンピースが腰の辺りまで濡れただけで大きな被害ではなさそうだが仕方なくワンピースを上から脱いだ。これだと全裸だ。   『隣の部屋なのに、、、しかしこれでは立ち上がれないわね』    このまま立ち上がろうとすれば床にお湯を盛大にこぼしてしまうだろう。  ミオは首にワンピースを巻いて桶にお尻を突っ込んだまま、全裸で身体の後ろに手をついて少しずつ動いた。 『よし、ちょっと恥ずかしい格好だけど、これで少しずつなら動けるわ』  ミオは慎重に足先と手を使い隣の部屋の入口を目指した。 『うんしょ、うんしょ。参ったなぁ結構大変だわ』  ようやくドアの前に着くと、手前側の宿泊客が二人出て来た。  あわわ。  夫婦の宿泊客は鍵をかけた後にミオに気がつくと悲鳴をあげた。   「きゃー!」 「わー! く、蜘蛛の魔獣だ!」    と言いながら一目散に逃げて行く。  そんな事ある訳ないわよ。私は普通のエルフだわ。そんな事、、、 「そんな事、、、あるらけねーっ!」  か、噛んだ! もう遠慮なんかしていられない。お湯を盛大にこぼしながら桶に挟まったお尻を突き出しへこへこと立ち上がって自分の部屋に逃げ込んだ。 「んーんっ!」  ハー。ようやく桶が外れた。痛ったー。お尻には桶の形に跡がついてしまった。  たー、酷い目にあったわね。 ◇◇◇◇◇  タッタッタッタッ。  ドアの外に誰かが来た。 『何処です?蜘蛛の魔獣は?』 『あの辺りに』   『確かに床が濡れてるね。しかし桶が盗られるとは、、、変な魔獣だな』 『自分で『アルラウネー!』って叫んでました』 『えっ! な、なんてこった。人型の伝説の魔獣が出るなんて、、、仕方ない桶は諦めるか、、、』  ガムールの主人は桶を諦め業務に戻った。 ◇◇◇◇◇  少しするとこの宿に誰も見たことがない想像上の人型の蜘蛛の魔獣『アルラウネ』が出ると噂になるが、それはミオやアレク達がいなくなった後の事である。    わ、私のせいじゃないわよ。  あーお尻痛〜。  
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