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第十話:故郷との決別は必然か
通常二十分はかかる道のりを、五分で走り第二倉庫街の港に到着する。
港へのフェンスをバンパーで突き破り、港に入ると一番端に停泊している船がちょうど今、出航するというタイミングだった。
突然現れた車に船の護衛たちは驚いている。
「よし、間に合った!」
イーサンが安堵感からか、笑いながら言った。
「でもイーサン。どんどん船が岸から離れて行ってる!」
ミナトが指さした船は岸から少しずつ離れていっている。
どれだけ急いでも、あの船に飛び乗る事はできないだろう。
「いや、諦めるにはまだ早いな!」
そう言うとイーサンは、再びアクセルを深く踏み込み、車を急加速させる。
「ちょ、ちょちょ海だけど! このまま突っ込む気!?」
ミナトは慌てて運転席に座る、イーサンの肩を連打する。
「あそこをよく見ろ、船と陸とをつなぐためのスロープがあるだろう? あれをジャンプ台にして車ごと船に飛び乗る」
確かに慌てて出航したからか、物資を積み込みやすくするためのスロープがまだ設置されたままだった。
しかし勾配は緩く、到底届くとは思えない。
「いやいやいや、そんなのできるのか!?」
「やってみたら分かるさ。それより口閉じてろ、舌をかむぞ!」
イーサンは頬を伝ってくる冷や汗をなめるようにニヤリと笑い、さらに車を加速させる。
加速の勢いでミナトは背もたれに叩きつけられ「グヘッ」と情けない声が出る。
「ミナト、どこか掴んでいないと顔がつぶれるよ」
アランは涼しい顔で天井についている手すりをつかんでいる。
いや、緊張しているのか目をギュッと閉じている。
「あぁ、もう! どうにでもなれ!」
ミナトも両手で力いっぱい手すりを握り、固く目をつむる。
「行くぞ! 届けええええッ!」
イーサンが叫び声を上げてすぐ、何かに乗り上げたような衝撃の後、ジェットコースターが落ちていく時のような浮遊感を全身に感じる。
怖い者見たさで目を開けると、車は真っすぐ船の方へ向かって空を飛んでいた。
「うわあああ! グフッ!」
一瞬の浮遊感の後、尻から全身を突き上げられるような衝撃を感じる。
そしてプシューという音が聞こえたかと思ったら、車内を徐々に煙で覆っていく。
「何とか乗り込めたな、敵が出てくるぞ、準備しろ」
イーサンも緊張していたのか、ふぅーと安堵の息を吐き車を出る。
「行くよ、ミナト」
「あ、あぁ」
続いてミナトと、アランも車を出る。
必死すぎて気づかなかったが、車で強引に乗り付けたこの船は結構大きく、船体の後部には広い甲板があり、前部に船内への扉がある、という構造だった。
「何事だ! ってなんだ貴様らは!」
船内からゾロゾロと、スーツを着た男たちが出てきて、ミナトたちにライフル銃を構える。
さっきまでの集団とは違い、訓練された身のこなしだ。
「やっぱり帝国が関わってるのか。アラン、お前は脱出のためのボートを確保しておいてくれ。四人が乗れる分のな」
「了解」
アランが船体の後部へ走っていく。
「俺たちはブリッジをおさえる。やれるな、ミナト」
イーサンが刀を抜き、楽し気に二ッと笑う。
「ああ、やってやるさ。カエデは俺が助けるんだ」
イーサンの隣に立ち、サブマシンガンを構える。
車でジャンプ台を使い、船に乗り込むなんて衝撃的すぎる事件をついさっき経験したからか、これから命のやりとりをするというのに何だか落ち着ている。
「頼もしいな、行くぞ!」
イーサンが先陣を切って、敵集団に突っ込んでいく。
ミナトも突っ込むが、イーサンの邪魔にならないように物陰に隠れながら銃撃戦にてっする。
「ぐわぁ!」
「がっ!」
ミナトが撃った銃弾で、男が倒れる。
今、自分は人殺しをしているのだと、強く痛感する。
しかしショックで引き金を引く指が重たくならなくて、少し安心した。
「はっ、案外冷たいんだな、俺って」
そんな自分の冷酷な面に気づいて、自嘲気味に笑い引き金を引く。
そして外に出てきた敵を全て片付ける。
「よし、ブリッジを目指す。行くぞ」
「了解……」
「あ、あと船内みたいな狭い場所ではいつでもナイフを抜けるようにした方がいいぞ。至近距離では銃よりも、ナイフの方が強いからな」
残弾が少ないマガジンを捨て、ベルトにさしていた新しいマガジンをサブマシンガンに装着する。
リロードを済ませてから、イーサンに続き船内に入る。
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