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第十一話:その笑顔を守るために
船内に入り、階段を上る。
そして二階の扉を蹴飛ばして侵入したイーサンに続き、ミナトもブリッジに入る。
「動くな! お前たちが引き取った少女はどこだ? 素直に吐けば命は助けてやる」
「吐くかよ!」
ブリッジにいた男たちが、一斉に拳銃を取り出しミナトとイーサンに向ける。
「無駄死にを……」
イーサンは発砲された銃弾を刀で弾きながら、瞬く間に船員を倒す。
ミナトが援護をする余地もなく一瞬で静かになったブリッジに、刀のつばと鞘がぶつかるキンという音が響く。
「船で施錠ができるような場所なんて限られているはずだ。行こう」
ブリッジを出て、螺旋階段を下りる。
そしてしばらく歩き、イーサンは『船長室』というプレートが掲げられている部屋の前で立ち止まり、ドアノブに手をやる。
しかしカギがかかっていて開かない。
「やっぱりな。ご丁寧に電子ロックまでかけて。ミナト、ここを銃で撃ってくれ」
イーサンがそういってテンキーのような、暗証番号を打ち込むタイプのキーを指した。
「了解」
ミナトはイーサンが少し離れたのを確認してから、テンキーを撃った。
金属が破裂するような音を上げて、電子キーが壊れる。
「よし、行くぞ」
イーサンがドアを蹴破り、室内に突入する。
船長室というだけあって、ソファがあったりテレビがあったりと、少し豪華な内装だ。
「ミナト!」
「……カエデ!」
声が聞こえた方に目をやると、カエデが座っていた。
最後に会った時よりも、少しやせた気がする。
たった一週間しかたっていないが、その一週間が濃すぎてもう何年も会っていないような錯覚を覚える。
「ごめん、遅くなった」
「ううん。信じてたよ、ミナト」
ずっと会いたかった。
こうしてカエデと目を合わせて会話ができるというだけで、涙が出そうになる。
「感動の再会の所悪いが、そろそろ行こう。アランも心配だ」
イーサンが室外を警戒しながらも、微笑ましそうに笑う。
「ねぇミナト、この人は?」
「イーサン。俺の恩人だよ」
当然だがイーサンに日本語は通じない。
だがそれでも今ミナトが言った事を雰囲気で感じ取ったのか、二ッと笑った。
「それじゃあ、行こうか。せっかく会えたんだ、しっかり守れよ」
イーサンが軽くミナトの肩を叩き、船長室を出る。
「あぁ、もうどこにも行かせない。行こう、カエデ」
「うん!」
イーサンに付いていき、船長室を出る。
そしてそのまま船内を脱出し、甲板に出る。
さっきまで曇っていた空は少し晴れ、時々月がその姿を現す。
「待っていたぞ、イーサン・ベイカー」
月明かりに照らされ、あのカエデをさらっていった仮面の男が立っていた。
その後ろ、甲板の端の方にはアランが魔法剣を構えて立っている。
「やっぱりいたか、出てくるのが随分遅かったんじゃないか?」
仮面の男にイーサンが近づいていき、刀の間合いの一歩後ろの辺りで止まった。
そして刀を抜く。
「その女を渡す訳にはいかない。そいつは我々にとって必要な存在だ」
仮面の男が、マントに隠していたサーベルを引き抜きイーサンに向ける。
「いや、残念ながらお前らが探してる力を持っているのは、そっちの男の方だよ」
イーサンがそう言ってミナトを親指で指す。
「そうか……。ならば奪わせてもらう!」
「うわ、危な!」
仮面の男が、一瞬消えたかと思えば強烈な殺気を感じたので、反射的にサブマシンガンを盾にしてしまったが、どうやら正解だったらしい。
サブマシンガンがサーベルを受け止めている。
「ほう、ずいぶん鍛えてくれたらしい」
ジリジリとサーベルの力を込めながら仮面の男が言った。
まるで上から落ちてくる岩を受け止めているかのように、サブマシンガンが重たい。
「ああ、磨けば光る原石って分かってるなら誰だって磨くだろう?」
「ふむ、いいだろう。今日は見逃してやる。貴様を殺すには戦力が足りなかったらしい」
仮面の男が、まるで騎士のように大仰にサーベルを鞘におさめる。
「賢明な判断だ、行くぞ」
イーサンも刀を鞘におさめ、アランの方へ歩いていく。
ミナトとカエデもソロソロと、仮面の男の横を通り過ぎ、イーサンの方へ走っていく。
「ボートの準備はできてるよ、全員乗れる」
「ありがとう、流石仕事が早いな」
イーサンがアランの頭をポンとなでるように叩く。
「さぁ乗って、ボートを降ろすよ」
アランに誘導され、ボートに乗り込む。
そしてイーサンが乗り込むという所で、仮面の男が声を上げる。
「イーサン・ベイカー! もう戻ってくる気は無いのか!」
その声にイーサンは少し考えるように立ち止まり、ゆっくりと振り返った。
「その気はないよ」
イーサンは少し寂し気に笑い、ボートに乗り込む。
それと同時にアランがボートを海面まで降ろし、エンジンをかける。
「さぁ帰ろう。明日は歓迎会だ」
穏やかな海を一つのゴムボートが、進んでいく。
この穏やかな海は、激動の生活を知らせる兆候か、それとも一時の休息という事か。
「ミナト」
ミナトを呼ぶ声とともに、左手にカエデの手が重ねられる。
「うん?」
「ありがとう、助けてくれて」
「約束したからな、絶対にカエデを助けるって」
「そっか……。好きだよ、ミナト」
「……! うん、俺もずっと好きだった、カエデ」
重ねられているカエデの手を取り、固く手をつなぐ。
もう離さない、そんな気持ちを込めて。
カエデのこの笑顔を守る。ミナトはそう改めて決意した。
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