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第十三話:凝り性な性格
今日の朝食は白身魚のスープに、サラダと食パン。
イーサンは毎朝こんな風にホテル顔負けの朝食を作ってくれる。
本人曰く「趣味も兼ねてるし、美味そうに食ってくれるもんだからついつい凝ったもんを作っちまうのさ」だそうだが、最近さらにレベルが上がっている。
この食パンは向かいのパン屋で買っているそうだが、東京で売ったら一斤数千円はかたいだろうというほど、クオリティが高い。
軽く持っただけでつぶれてしまうほど柔らかい食感に、口内に広がる優しい甘みは、どんどん食欲を刺激する。
ミナトも初めて食べたときはとても驚いたが、隣に座るカエデも驚いているのだろう、目をキラキラと輝かせて夢中でパンを食べている。
「美味いだろう、それ。俺も初めて食った時は驚いたよ」
イーサンが腕を組み、うんうんと誇らしげにうなずいている。
「イーサンなんて言ってるの?」
「それ、美味いだろう、って」
ミナトはカエデが持っているパンを指さす。
「うん、ホント美味しい。でもイーサンの料理もお店が出せるくらい美味しいと思うよ」
「イーサンの料理も店が出せるくらい美味しいってさ」
カエデが言っている事を、通訳みたいにイーサンに伝える。
「ああ、いずれは、そういうのもいいかもしれないな」
イーサンがフッと笑い言った。
ミナトには少し寂しそうな表情をした風に見えたが気のせいだろうか。
「そういえば、今晩カーヴァーファミリー本邸でミナトとカエデの歓迎会やるから、その準備もしないとな」
「カーヴァーファミリー?」
「あぁ、説明してなかったか。『カーヴァーファミリー』ここら一帯を取り仕切っているマフィアだよ。言ってみればカーヴァー自治区のお偉いさんだな。
そのボスの、ダンテ・カーヴァーがお前らの歓迎会を開くって言うから、ありがたくお邪魔するという事さ」
「え、マフィア?」
この地域を代表する偉い人が、わざわざ自分たちの歓迎会を開いてくれるというのだ、こんなに光栄な事は無い。
ぜひ参加したい所だ。
しかし『マフィア』という聞き逃せない単語が聞こえてしまった。
酒、女、犯罪。そして薄暗い地下室でハットを被ったひげの男がタバコをくわえながら猫をなでている光景が思い浮かぶ。
ミナトがそんな良からぬ妄想をしているのを察したのか、イーサンがフッと面白そうに笑う。
「心配しなくても、この地域を長年取り仕切ってるファミリーだから大丈夫だ。それにずっと言ってた、俺のクライアントっていうのが、このカーヴァーファミリーだからな。安心してくれ」
イーサンがずっと言っているクライアントという事は、カエデ救出作戦の時に色々情報をくれたのもこのカーヴァーというマフィアになる。
なら、案外悪い組織ではないのかもしれない。
「大丈夫だよ、ミナト。ダンテはバカだけど悪い事をする奴じゃないよ」
「お前、絶対にそれ本人の前で言うなよ……」
アランのフォローか、バカにしているのか分からない、なんとも言えないフォローにイーサンは思わず苦笑する。
「私、ここで生きていけるか少し心配だったけど、あんまり心配なかったみたい」
言葉が分からなくても、この家の楽し気な雰囲気は伝わっているのだろう。
カエデも楽し気にクスクスと笑っている。
「うん、俺もそう思う」
こうして騒がしい朝食を終え、ミナトたちは日が落ちると、少し服装を整えカーヴァー本邸へ向かった。
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