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第十四話:人の上に立つ素質
「はぁー、凄いな……」
堅牢そうな鉄の門を、門番に通してもらい綺麗に舗装された並木道を歩く。
道中にテーマパークのような噴水があったり、先代の銅像が設置されていたりと、由緒ある家なんだと思わせられる。
そして並木道を十分ほど歩くと、ついに貴族が住んでいそうな大きな屋敷が現れた。
レンガ造りで、教科書で見たことがあるような屋敷だ。
「お待ちしておりました、ベイカー様」
ドアの前に立っていたメイドが、深々とお辞儀をしたのち分厚く重そうなドアを開けてくれる。
「どうも」と、慣れた様子でイーサンとアランが通り過ぎていくので、ミナトとカエデも軽く会釈をしながら横を通り抜け、屋敷内に入る。
屋敷内に入り、まず目を引くのが高い天井に設置された豪華絢爛なシャンデリアだ。
遠くから見ても分かるくらい、大小さまざまな宝石や貴金属がちりばめられ、照明に照らされ直視すると眩しいくらいきらめいている。
「よぉ、待ってたぜ」
正面にある二つの階段の左側から、メイドを連れた男が階段を下りてくる。
濃淡のある紫色のスーツを着ていて、シャツは第二ボタンまで開いている。
そして首元まで伸ばしている茶色い髪はまとめられている。
一言で言うならうさんくさい。ミナトはそんな感想を覚える。
「よく来てくれたイーサン、アラン」
「カーヴァー自治区長のお呼びだからな、来ない訳にはいかないよ」
イーサンが大仰な仕草で礼をする。
「よく言うよ」と男は笑い、二人はこぶしを突き合わせる。
「アランも元気そうだな、今日は飴玉をやろう」
「ありがとう」
アランはもらった飴を大事そうにポケットに入れる。
そんなアランの頭にポンと手を置きながら、男はミナトとカエデを見る。
「初めましてだな、俺はダンテ・カーヴァーだ。役職は色々あるが、まぁそうだな。今はカーヴァー自治区長って言っておこうかな」
そう言ってダンテはミナトに手を差し出す。
「カトウ・ミナトです。よろしくお願いします」
ミナトは差し出された手を取る。
うさんくさい見た目とは違い、意外としっかりとした手だった。
「お嬢さんもよろしくな」
まるでお姫様の手を取る王子様のように、膝を床につきダンテは手を差し出す。
「よ、よろしくお願いします?」
差し出されたダンテの手に、おそるおそるカエデは手を重ねる。
「カエデは、ここの言葉が分からないんです」
聞きなれない言葉を話すカエデに、ダンテは不思議そうな顔をしていたが、ミナトの言葉を聞くと納得したような表情を浮かべた。
「そうか、それは悪い事をしたな。まぁ後は飯でも食いながらゆっくり話そうか」
そういってダンテは左の通路の方へ歩いていく。
「ご案内いたします、こちらです」
メイドが軽く会釈してから、ダンテの少し後ろをついていく。
それに並んで全員付いていく。
まるで雲の上を歩いているような、赤いふわふわの絨毯の上をしばらく歩き、黒い両開きのドアの前で立ち止まる。
「どうぞ」
メイドが開けてくれドアを通り、部屋に入る。
何人も座れそうな長机には、いくつかの燭台と、食欲を刺激する見た目も美しい料理が並んでいる。
高級なフレンチみたいな感じだろうか。
皿を中心に等間隔にナイフやフォークが並べられている。
「遅かったな、ダンテ」
一番奥の席に座っている男が口角を吊り上げ悪人顔で笑う。
黒い髪はオールバックにしており、濃紺のスーツを着ている。
ダンテとは真逆のクールなイメージを覚える。
「早いな、ルイス」
「俺は集合時間の五分前には到着する主義なんだよ『真面目』だからな」
そういって男はワイングラスをあおる。
「そうかい。こいつは、ルイス・ヴォルフ。俺の兄貴だ。まぁ血は繋がっていないんだがな」
ダンテが隣に座りながらルイスの紹介をする。
「よろしくな」こう言いながら、ルイスはパンにかぶりつく。
『血がつながっていない』なんてしれっとハードな事をダンテは言っていたが、この世界ではそれくらい普通の事なのだろうか。
ミナトはそう思ったが、誰も口を出さないので黙っておく。
「まぁお前らも遠慮せず食ってくれ。ミナトたちの異世界の話も聞いてみたいしな」
こうして歓迎会が始まった。
ダンテは人の話を聞くのがとても上手く、気づけばミナトがずっと気持ちよく話している、みたいな状態だった。
カエデもミナトという通訳を介してだが、楽しそうにしていた。
見た目はうさんくさいが、ダンテにはどこか人を引き寄せる魅力がある。
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