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第十五話:回想と決意
そしてダンテも酔いが回ってきたのかアランにうざ絡みを始めたころ、数分前にベランダに出ていったイーサンが戻ってきていない事にミナトは気づいた。
「そういえばイーサン戻ってこないな。ちょっと見てくる」
「行ってらっしゃい」とカエデに見送られながら、ベランダに出る。
ベランダに出ると、イーサンが柵にもたれながら、夜空を見ていた。
イーサンは顔が良いので大変画になる構図だ。
「来たのか、ミナト」
イーサンがゆっくりと振り返りミナトの方を見る。
「ああ、なかなか帰ってこないから何かあったのかなって思って」
「いや、大した事じゃない」
フッと笑ってイーサンは再び、柵にもたれかかり夜空を見る。
何となくミナトも隣に立ち、同じように二人並んで夜空を見る。
「なぁミナト、お前はこれからどうするんだ?」
「まだ何も決めてない」
ミナトは大げさに肩をすくめる。
これまでは『カエデを助ける』という大きな目的があった。
だからその目的のためにがむしゃらに進む事ができたが、それが成された今、なんだか精神的にフワフワしている様な感覚がある。
何かをやらなくてはいけない、という責任感はある。
しかし何をすればいいのかは分からない、というフワフワ感だ。
「そうか……。なぁ、少しだけ、長話をしてもいいか? 俺が戦う理由の話を」
「うん」とミナトは深くうなずく。
イーサンが深く深呼吸をしてから、何かを思い出すようにゆっくりと話し始める。
「もう五年前になるかな、大陸の方で戦争があった。
全部で十年にも及んだ長く、苦しい戦争だった。
その戦争に俺も参加していたんだ。
出来た仲間のほとんどが死んだし、俺も数えきれないくらいの敵を殺した。
正直何の罪悪感もなかったし、戦場だけが俺の居場所だった。
だけど休戦の直後、俺はとある捕虜と出会って変われたんだ。
あの男は心から平和を、戦争なんて無い世界を目指していた。
初めはバカにしてたんだけどさ。
いつからか、目をキラキラと輝かせて理想を語る彼の姿に憧れるようになった。
この男なら、俺を変えてくれたこの男なら、本当に世界を変えてくれるかもしれない、そう思った」
イーサンはゆっくりと、少しずつ思い出すようにそれを話した。
「その人は今どこに?」
少し言いよどんだのち、イーサンは寂しそうに笑った。
「……死んだよ。だからあの人の夢を、理想は俺が継いだんだ。
ベイカー商会だってそのために作った。こんなの夢物語だって思ったか?」
「いいや、素敵な夢だと思った。世界平和なんて、皆が一度は願った夢だ。
だけどその夢のために、自分の命をかける事ができる奴なんて誰もいない。
だから俺はイーサンを尊敬する」
イーサンが少し驚いたように、目を見開いた。
そして少し安心したように息を吐き笑った。
「……ありがとう。実は、ダンテも俺の夢に賛同してくれて色々協力してくれてるんだ。
カエデの居場所を調べてくれたのも、実はカーヴァーファミリーなんだぜ」
「そうだったんだ。後でお礼を言っとかないと」
「ああ、ダンテも喜ぶよ。なぁミナト、お前もベイカー商会に来ないか。俺にはお前の力が必要だ」
柵から腕をどけ、まっすぐと立ってイーサンは言った。
「もちろん、受けた恩は返すよ。それにさ、権利の裏にはいつだって責任がある。俺は自分の責任を果たすよ、ここで手に入れた力の責任をさ」
「そうか……。じゃあ、改めてよろしくな、ミナト」
イーサンが右手を差し出す。
「こちらこそ。あ、もしかしてベイカー会長って呼んだ方がいいですか?」
ミナトは差し出された右手を力強く握る。
「ははっ、それは勘弁してくれ」
二人笑いあいながら握手をする。
イーサンと暮らし始めてかれこれ一週間になるが、今日初めてイーサンが心から笑っているのを見た気がする。
「ひゅー、お二人さんお熱いねぇ」
顔を真っ赤にしたダンテが窓枠にもたれながらミナトの方を見ている。
その隙間からカエデが、その後ろでアランがぴょんぴょんと現れては消えてを繰り返していた。
「うるさい、飲みすぎだ。そろそろ帰るぞ」
「あぁん? 俺の酒が飲めないっていうのかぁ?」
「酔いすぎだ……。全く、今反カーヴァー派が行動を起こしたらどうする気だ?」
イーサンが酔っ払っているダンテを椅子に座らせ、水を渡す。
「うるせぇ……。そん時はルイスがいるから大丈夫なんだよ。いや、むしろ俺は酔っ払ってるだけで、何もしないのが逆に仕事なのさ」
水をあおるように一気に飲み干し「ふぅー」と息を吐く。
「全く、自分の評価が低いのは昔から変わらないな。ベイカー、悪いが今日はお開きだ」
ふらふらと寝そうになっているダンテを支えながらルイスが言った。
「そうだな、あとは任せるよ。それじゃあ帰るぞ」
「またね、ダンテ」
「おーう、また明日な」
アランがダンテに手を振ってから部屋を出る。
続いてカエデ、ミナトと部屋を出る。
「カトウ・ミナト」
「はい?」
ルイスの声でミナトの名前を呼んだ気がしたので、出た部屋に一瞬戻る。
「気をつけろ、自分が思っている以上にお前には価値がある。自分の身の振り方には気を付けるといい」
ニヤリと笑ってルイスが言った。
「どうも……」
ルイスの笑顔には言葉にするには難しい恐怖感、不快感を感じる。
軽く会釈をして、少し先で待っていたイーサンたちの所へ小走りで行く。
「さぁ、帰るぞ」
メイドのお見送りを受け、屋敷を出る。
そして四人で他愛ない雑談をしながら歩いていたその時、それは突然起こった。
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