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第十六話:変わってしまった日常
ドン! バーン! ガシャガシャガジャ!
カーヴァー本邸での歓迎会を終え、ミナトたちが路地を歩いていている時だった。
耳鳴りがするほどの爆発音と、体の芯から震え上がるほどの振動。
そして風に乗って焦げた匂いが漂ってくる。
おそるおそる振り返ると、ついさっきまで歓迎会が行われていたカーヴァー本邸の方から煙が立っていた。
大火事が起きているのか、空が赤い。
「ダンテが心配だ、本邸の様子を見てくる。お前らは先に家に戻っていてくれ!」
イーサンが簡潔に指示を出し、本邸の方へ走っていく。
さっきまで自分たちがいた場所が突然爆発した。
という目をそらしたい事件に思わず呆然と煙を眺めてしまう。
「ミナト、カエデ行くよ」
呆然としているミナトとカエデの肩を叩きアランが家の方へ走り出す。
ふと我に返り、ミナトたちもアランを追いかける。
「あの爆発……ただ事じゃないだろ? イーサン一人で大丈夫なのか?」
姿勢を低く保ちながら走るアランの背中に向かって問いかける。
「だからだよ。あの規模の爆発はただの事故じゃない。
おそらくダンテの命を狙った事件だ。だからイーサンは戦闘準備をしておけって意味で僕たちを先に帰らせたんだ」
少しも呼吸を乱れさせずにアランが淡々と質問に答える。
「戦闘準備って……まさか!」
「うん、たぶんそのまさかだよ」
思わずつばを飲む。アランの言う通りだったら、おそらくミナトが想像しているような状況なのだろう。そうだとしたら最悪だ。
「ねぇ、ミナト。どういう事?」
ミナトの隣を走っているカエデが不安そうに聞く。
「この地域は、現体制の『親カーヴァー派』と、それを打倒して利権を手に入れたい『反カーヴァー派』 が小競り合いを続けているんだ。
だがもしもあの爆発が、反カーヴァー派による宣戦布告も込めた攻撃だとしたら?
こちらはリーダーの命が狙われたんだ。こっちもそう易々とは引けない。
簡潔に言うと……戦争になる」
「戦争!?」
『戦争』という単語は普通に暮らしていたら、もはや歴史の一部くらいにか思わないだろう。
しかし、今は違う。
突然この町を覆ったこの緊迫感はこの非常事態が間近に迫っているのだと、実感させられる。
「アラン、あれ!」
数分後、かなりのハイペースで家の前まで到着した。
しかし、玄関の前にはガラの悪そうな男たちがたむろしており、家に入る事は出来そうにない。
それどころか男たちはミナトたちを見つけると、ニヤニヤと意地汚い笑みを浮かべている。
「う~い、お前らだな。ミナト、アランって奴は」
「だったら何?」
アランが魔法剣に手をやりながら、答える。
それを見てリーダーらしい男はニヤニヤとしながら、ナイフを取り出す。
「お前らをやればさぁ、特別ボーナスらしいんだわ。恨みはねぇがよぉ、ここで死ねやぁ!」
リーダー格の男がアランに向かって走り出すのを合図に、後ろに控えていた男たちも各々の武器を構え向かってくる。
「チッ、邪魔だな。全員まとめて殺してやる」
アランは小さく舌打ちをすると、迷う事なく魔法剣を抜き男たちを倒していく。
「カエデ、俺の後ろに隠れて! 全く、いきなりか……」
「う、うん!」
カエデを、建物の陰で姿勢を低くしている様に指示を出し、ミナトは守るように前に立つ。
そしてズボンとベルトのすき間にさしていたハンドガンを取り出し、構える。
「こ、このガキ強すぎる! あっちを先にやるぞ!」
アランを殺すのは無理だと判断したのか、半数になってしまった男たちがミナトの方へ走ってくる。
「先にやる……か。お前らなんかに負けるかよッ!」
ニヤニヤしていた先ほどとは違い、青ざめた様子で向かってくる男たちを、冷静に撃ちぬいていく。
「ヒィ! 何なんだこのガキども!」
十人近くいた仲間をたった数分で失ってしまったのが衝撃だったのか、男はその場で腰を抜かしてしまう。
「なんだと言われても、なぁ?」
ゆっくりと座り込んでいる男に近づき、ミナトはハンドガンを構える。
「うん、僕たちはベイカー商会だ」
「そういう事だ、それじゃ」
「ちょ、ちょちょっと待ってくれ! まだ死にッ!」
パァン! という破裂音が聞こえると男が静かになり、バタンと倒れる。
「お待たせ。ケガは無い?」
「うん、大丈夫。ありがとう」
差し出されたミナトの手を取り、カエデがゆっくりと立ち上がる。
「余計な時間を取られた、急ごう」
魔法剣をおさめ、不愉快そうな顔をして家に入っていくアランにつづきミナトたちも家に入る。
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