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第十八話:カーヴァーの代表たれ
ミナトたちと別れてから数分後、イーサンはカーヴァー本邸に到着した。
門番が慌ててイーサンの方へ駆け寄ってくる。
「ベイカーさん! これは私の憶測なんですが、たぶん煙の方から武器庫がやられました!」
「武器庫が!? ありがとう、ここの防衛を固めるんだ。敵はすぐにくるぞ!」
最低限の事だけを門番に伝えて並木道を走り本邸へ向かう。
本邸は突然武器庫が爆発を起こした、ということで大混乱という状況だった。
イーサンは右往左往しているメイドの肩に手をやり一人捕まえる。
「ダンテは今どこにいる、何をしてる?」
ビクンと体を震わせたメイドを安心させるように、イーサンはできる限り優しい声色で問いかける。
「坊ちゃんは執務室です、ついさっき向かわれました」
確かこのメイドは最近入った新人だったはずだ。
緊張で頭が回らないのか声がうわずっている。
「分かった、ありがとう。他のメイドと協力してすぐにバリケードを構築してくれ。君ならできるはずだ」
パニック状態で今にも泣きだしそうになっていたメイドの目をまっすぐと見つめやるべき事を伝える。
「は、はい!」
メイドはふらふらとした足取りながらも、自分の仕事をこなしに行った。
所狭しと走り回っているメイドを避けながら、執務室へたどり着く。
ノックもせずにドアを開け放つ。
今は緊急事態だ。多少の無礼は仕方ないだろう。
「良かった、とりあえずは無事だな。で、武器庫がやられたと聞いたが、他に被害はあるのか?」
執務室の机でうなだれているダンテに詰め寄る。
さっきまで真っ赤だった顔は、真っ青になってしまっている。
「分からない。通信設備が全部やられたんだ。調査部隊は出したが、まだ被害状況も現在の状況もわかってない」
「いや、十分だ。仕事が早いな。それより屋敷の防備を固めるんだ。敵はまっすぐここに向かってくるぞ……っておいダンテ、聞いてるのか」
ダンテは魂が抜けてしまったように、呆然と机を見つめながらブツブツと何かをつぶやいている。
「ルイスがいないんだ。俺はじいさんとは違う。ただのカーヴァーのお飾りだ。ルイスがいないと俺は。カーヴァーだってルイスが継ぐべきだって何度も……」
ダンテは、先代である祖父からカーヴァーファミリーを継いでから、幼少期から天才、神童という言葉を欲しいままにしてきたルイスを隣に置いて仕事をこなしてきた。
そんな幼少期からの兄貴分であったルイスが安否が不明なのだ。
落ち込むのも無理はない。
しかし、今ダンテにふ抜けてもらう訳にはいかない。
スゥーと息を吸いバン! と勢いよく机を叩く。
そして目を見開いているダンテの肩を強く叩き、その青い目をまっすぐ見据える。
「お前は確かにカーヴァーのお飾りかもしれない。だが、お前がカーヴァーを継いだんだ。
やれるから、やるのか? やれないから、やらないのか? 違うだろう?
お前がカーヴァーの代表なんだ。お前のやるべきことをやれ」
「……あぁ」
失望の底に沈んでいたダンテの目に炎がともる。
「ミナトたちも、もうじき帰ってくるはずだ。俺も防衛部隊に加わる。
いいか、これはお前にしかできない事だ。
皆お前の声を待っているんだ。それを忘れるなよ」
イーサンは信頼の意味を込め二ッと笑い、執務室を出る。
「俺の予測なら、もうじきここに敵が押し寄せるはずだ。
全く、これほど自分の予測が外れて欲しいと思った事は無いな……!」
この屋敷の外周は正門ほどではないにしろ、堅牢な鉄柵で囲まれているのでそう簡単に突破はできない。
そして広すぎる敷地ゆえにここにたどり着くまで時間がかかる。
だがそれも時間の問題だ、ものの数分で敵部隊と会敵するだろう。
「まぁ、時間稼ぎくらいはするさ」
イーサンは階段を二段飛ばしで駆け下りながら、バリケードの構築を手伝うために外に出た。
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