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第十九話:アランの魔術
ストラップを取り付けたアサルトライフルを背負い、さっき帰ってきた道のりを三人で走る。
さっきの爆発の影響か、通りは所狭しと人であふれている。
街のシンボルにもなっているカーヴァー本邸が突然爆発したのだ、それも当然か。
人の波をかき分けながら何とかカーヴァー本邸の門の前まで着く。
「ベイカーさんは、本邸です。さきほど連絡役がきましたが、すでに交戦状態だそうです。お気をつけて!」
走りながら門番に手を振り人通りのない並木道を走る。
まだここまで火の手がきていないからか、植木は綺麗なままだ。
しかし本邸まではまだ距離があるここでも、すでに銃声が聞こえてくる。
「カエデ、危ない!」
突然何かが光った気がして、カエデを押し倒すように木陰に飛び込む。
その瞬間、さっきまでミナトたちが立っていた所が爆発を起こし大穴が空く。
「大丈夫、カエデ?」
「うん、ありがとう」
カエデに幹の裏に隠れるように言って、ミナトは顔を少しだけ出し様子をうかがう。
そこには二メートルほどの大きさの、金属の鎧をまとった物体。
一言で言うなら……。
「ロボット……?」
暗がりで分かりにくいが、対面側の木の裏に隠れていたアランも驚いているように見える。
このロボットが三体、横並びに立っていて道をふさいでいる。
様子をうかがっているとロボット兵は、右手に装備しているマシンガンをゆっくりとこちらへ向け、突然発射する。
三体同時の一斉射。
「カエデ、頭を下げて!」
慌てて、隣の木の裏に隠れているカエデに覆いかぶさるように姿勢を低くする。
さっきまでミナトの頭があった場所が、一瞬でハチの巣状に穴があく。
一瞬でも反応が遅れていたら、死んでいた。
目の前に死を感じる重い緊張感に息をのむ。
「クソッ、やっぱり倒さないとダメか!」
掃射が止んだタイミングで飛び出す。
アランも同じ考えだったのか、既に切りかかっている。
しかしすぐに戻ってくる。
「ダメだ、僕の魔法剣でも通らない。あの装甲固いよ」
「ガワが固いなら、すき間を狙えば!」
ミナトは肩にかけていたアサルトライフルを構えようとするが、アランは一歩前に出てそれを制する。
「確かにそうだけど、今は時間が無い。僕がまとめて片付ける」
「まとめてって、剣で切れないんだろう? 一体どうやって?」
ミナトの問いにアランは返事と言わんばかりに、左腰にいつも身に着けているポーチから赤く光り輝く美しい宝石を取り出す。
「これが魔法剣と呼ばれる所以を見せてあげるよ」
アランは「危ないから、下がってて」と言うと、ロボット兵の方へ歩いていく。
そして球形の赤い宝石を魔法剣の鞘の部分にはめ込む。
すると、宝石から発せられた赤い光が魔法剣の腹の部分をまっすぐ走る。
「レッドキャルキュラス、フレイムコーティング」
アランが魔法剣を振るうとまぶしいくらいに宝石が輝き、その瞬間魔法剣が炎に包まれる。
リロードが完了したのか、ロボット兵たちがアランに照準を合わせる。
「薙ぎ払う! フレイムバースト!」
オーバースローで魔法剣を振り払い、炎の斬撃を飛ばす。
よほど高温なのか、後ろにいるミナトにまで熱波が飛んでくる。
「熱っ!」
熱波に思わずつむってしまった目を開けると、そこには所々が高温で溶けた鉄の塊が転がっていた。
「凄い……! これが魔術の威力!」
「まぁ、まだ見習いだけどね……ッ」
アランは自慢げにほほ笑むが、突然人形の糸が切れたように膝をついてしまう。
「大丈夫か!」
「うん、大丈夫。ちょっと魔力を使いすぎただけ。それより急ごう、時間が無い」
ミナトが差し出した手を取り、アランが立ち上がる。
少しふらついているが、アランの言う通り時間は無い。
「分かった、行こう」
鉄の塊と化したロボット兵の横を通り過ぎ、ミナトたちは並木道を走る。
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