第三話:プライベートビーチは地獄の一丁目

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第三話:プライベートビーチは地獄の一丁目

「ここが、プライベートビーチ?」  イーサンの運転する車に揺られ三十分ほどの場所にそれはあった。 プライベートビーチというのだから、ミナトは透き通る青い海に、どこまでも広がる青い大空に白い砂浜を想像していた。  しかし今目の前に広がる光景は、黒く濁った海にどんよりと曇った空、そして謎の金属片が無数に広がる砂浜だった。 「こんな所裸足で走り回ったら足が血だらけになっちゃうよ……」 「あ? 何言ってるんだお前は。ここの砂浜は戦争の影響で汚染されてるんだ。血だらけどこか、下手すれば死ぬぞ」  ボソッとつぶやいたミナトの独り言が聞こえていたのか、イーサンは若干あきれながら砂浜を歩いていく。 「それもそうか、遊びに来たんじゃないんだ俺は」  頬を強く叩き気合を入れ直し、やたら歩くのが速いイーサンとアランに小走りでついていく。  そしてビーチを歩くこと数分。 岩場のかげにフェンスで区切られ、等間隔で人型の的が並べられた施設の前でイーサンが立ち止まった。  これはいわゆる射撃場というやつだろうか。  手慣れた様子でカギを開けイーサンたちが射撃場に入っていく。 「訓練を始める前に、簡単にだが奪還作戦の説明をしておこうと思う。ミナトのモチベーションも上がるだろうしな。  決行日は一週間後の夜。  この日にターゲットは第一倉庫街から船で移送されるらしい。簡単に言えば移送中に奇襲を仕掛けて、混乱に乗じてターゲットを回収するという算段だな」 「奇襲作戦……」  ミナトはボソッとつぶやく。 「そうだ、敵だって俺たちが攻撃を仕掛ける事くらいは予測してるはずだからな。真正面からぶつかってもすりつぶされるだけだ。  だからチャンスは一度きり。これで失敗したらもう恋人には一生会えないと思った方がいい」  イーサンの低く、抑揚のない声が余計にリアリティを感じさせる。  こんな異国の地で、しかもここは平気で銃弾が飛び交うような場所なのだ。  カエデとは文字通り今生の別れとなるだろうという事くらいは、ミナトにも容易に想像がついた。 「俺とアランだけで行った時の成功率が約50%だ。ここから可能性を高めるにはお前が強くなるしかない。やれるか?」  イーサンがミナトの決意を試すようにじっと目を見つめる。 「当たり前だ、俺は強くなるよカエデを助けるために。そのためならどんな地獄のような事もやり通してやる」 「よし、その意気だ。それじゃあ始めようか、その地獄の訓練ってやつを」  ミナトの決意に納得したのか、イーサンは感心そうに笑いアタッシュケースを開ける。  そこから拳銃とナイフを取り出しミナトに手渡す。  あまりにも自然に手渡されたので思わず受け取ってしまったが、ずっしりと手の平に重みがかかる。 「まずは射撃訓練だ、そいつの使い方を教える」  イーサンから一通り拳銃の使い方教わり、いくつかに区切られたブースの一つに入る。今教わった通りに構え、安全装置を解除する。 「使い方は覚えたな、それじゃあ構え……。3、2、1、撃て」  構えで射撃体勢に入り、カウントダウン中に狙いを定める。  そして撃つ。引き金を引いた瞬間ズドンと指先から肩まで衝撃が走る。  初めての射撃に心臓が激しく波打ち、筋肉はこわばる。 「次、3、2、1、撃て」  再びズドンと衝撃が走る。  一発撃つごとに衝撃で手はしびれ肩は痛む。  そしてミナトは昼までずっと射撃を続けた。 「うん、悪くない。30点くらいだな」  昼食のサンドウィッチを口に運びながらイーサンは言った。 「あ、そうっすか……」  初めて銃を手に取ってからぶっ続けで二時間は撃ちっぱなし。  もう既に手はしびれて感覚がないし、肩はサンドウィッチを口に運ぼうとしただけで強く痛む。 「なんだ、もう弱音か?」  イーサンがいたずらっぽく笑う。 「いいや、まだまだ。これくらい余裕」  ミナトは強がるように、大きく肩を回す。  その瞬間、ピキッという音と共に全身に激痛が走る。  思わず笑顔が引きつる。その引きつった笑顔を見て、イーサンとアランが笑う。 「そいつは良かった。あと一つ良いことを教えといてやる」  ひとしきり笑ったあと、イーサンはコホンと一呼吸置き、少し遠い目をして言った。 「お前、ずいぶん肩を痛めたようだが、銃弾が当たった時はもっと痛いぞ」  その体験談は聞きたくなかった。  そして午後からは格闘訓練が始まった。  丸腰のイーサンにナイフで戦うというので、初めは躊躇していた。  しかしそんな甘い考えは一日中イーサンとアランに、代わり代わりに吹き飛ばされ続けていたら、気づけばどこかへ吹き飛んでいた。 「射撃は90点以上で合格、格闘は一瞬でも俺に危険を感じさせたら合格だ」  こうしてミナトの、地獄の様な訓練が始まった。
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