11人が本棚に入れています
本棚に追加
第四話:転移の力は確かにここに
ミナトがこの世界に来てから一週間がたった。
ハードな訓練をこなしながら、休憩がてらイーサンたちと話していく内に、少しずつだが今ミナトが置かれている状況が分かってきた。
まず、ここは寝室にあった地図の通りノースウェルという国で、東京どころか日本という国は存在しない。
ミナトなりに状況を整理すると、暴漢から逃げているうちに、なぜかこの『異世界』に迷い込んでしまったという事らしい。
自分でもそんなまさかと思ったが、考えれば考えるほどドツボにはまっていったので、ミナトは考えるのを止めた。
適応力というのは自分の置かれた状況を、自分なりに解釈して受け入れられる能力の事だとミナトは思う。
なら今、自分はノースウェルという異国にいてこうして訓練を受けている。
理由は分からないが言葉も通じるのだ。
ならば目標に向かって全力で進んでいくしかないだろう。
そして今日はついにカエデ救出作戦の決行日。
ミナトが作戦に参加できるかイーサンが見極める日だ。
プライベートビーチの射撃場で、イーサンと見合う。
「我ながら厳しい訓練だったと思うが、よくついてきたな」
「ありがとう。おかげで俺は強くなれた」
自分でも分かる。
ミナトはあの暴漢どころか、カエデを襲ったあの集団にも勝てるくらい強くなった。
正直それでもイーサンに勝てるかは分からないが、惨敗するような事はないだろうと思う。
「そうだな。お前は俺が想像していた何倍も強くなった。どうやら今日はこれを抜けそうだ」
イーサンは左手に帯刀していた刀を抜く。
始めて自分に向けられたイーサンの殺意に思わずつばを飲む。
「望むところだ、俺もいつも通り本気で行く!」
ミナトも右手にハンドガンを、左手にナイフを逆手に構える。
こうやって武器を構えるのもずいぶん手慣れた。
「毎日言ってきた事だが、最終日だからな。改めて言わせてもらう。
合格の条件はただ一つだ。俺に一瞬でも恐怖を感じさせること。
それじゃあ、始めようか」
イーサンが姿勢を低くし刀を両手で構える。
ミナトも大きく深呼吸をし、ハンドガンの安全装置を解除する。
「行くぞ!」
ミナトは姿勢を低くし、ばねのように飛びイーサンと一気に距離を詰める。
まずは先制攻撃と大きくナイフをふるう。
しかし読まれていたのか、最小限の動きだけで簡単に避けられる。
反撃に振られた刀をその場にしゃがみこんで避け、その勢いを残したまま、イーサンの足を払う。
「甘い!」
イーサンは少しジャンプをしてミナトの蹴りを避けつつ、落下の勢いも生かしつつ素早く刀を振るう。
「ッ!」
ミナトは刀を避けるため、左に転がりながら起き上がりざまにハンドガンを撃つ。
若干無理に動いたので関節に負担がかかる。
一瞬で呼吸を整え、再び接近する。
「どうした、動きが鈍くなってるんじゃないか?」
ミナトの連続ナイフ攻撃を軽々と避けながら、カウンターにパンチをしてくる。
「まだまだぁ!」
パンチを避けながら、ハンドガンで殴るのかという距離で数発引き金を引く。
それも涼しそうな顔で避けられる。
「それならお前の力をもっと見せてみろ!」
強烈な回し蹴りを腹部にくらってしまい、後方に大きく吹っ飛ぶ。
受け身も取れなかったので、呼吸ができない。
「ゲホッ、ガハッ。はぁ、はぁ」
吹っ飛ばされた時に口の中を切ったのか、血の味が広がる。
ミナトはこの日のために様々な攻めパターンを用意してきた。
しかしその全てが見破られ対応された。
(何か、イーサンの想像を超える択を考えないと……)
呼吸を整えながら、酸欠で頭痛がひどい脳をフル回転させる。
しかし一週間かけて考えた攻め択が全て通用しなかったのだ。
そう簡単に思いつくはずがない。
「目を見たら分かる、まだ諦めていないんだろう? 何を迷っている? 答えは初めから出ているはずだ」
楽な姿勢をとっていたイーサンが、再び刀を構える。
(そうだ、俺は誓ったじゃないか。どんな事をしてでもカエデを助けるって。こんな所で折れてられない。イーサンを倒す方法は戦いながら考える!)
大きく深呼吸をして、精一杯の力を足に込める。
余計な力を抜き、全身の力を一か所に集めるイメージだ。
今出せる一番早いスピードでイーサンに突っ込む。
いくら考えても思いつかないのなら、戦いの最中に考えるしかない。
「どうやら覚悟が決まったらしいな」
ミナトの顔つきが変わったのが分かったのか、イーサンは満足そうに笑ったのち一転して本気の顔つきに変わる。
イーサンに吹き飛ばされ続けたから分かる。
あれは本気でミナトの攻撃を警戒している構えだ。
「ふぅー、はぁ!」
吐き切った所で息を止め、全力で前方へ力を込めダッシュする。
まっすぐイーサンの懐に飛び込むように最大スピードで突っ込む。
「甘いな!」
これが走馬灯というやつだろうか。
イーサンが刀を水平に振り払おうとするのがスローモーションに映る。
回避もせずこのまま真っすぐ突っ込めばただでは済まないだろう。
だが体をよじって回避するという択は、ミナトの頭の中にはない。
そうならないためには、どうすればいいのか。答えはすでに出ていた。
(死角を……取る!)
そう強く思った瞬間、一瞬ミナトの意識が飛んだ。
最初のコメントを投稿しよう!