第四話:転移の力は確かにここに

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第四話:転移の力は確かにここに

 ミナトがこの世界に来てから一週間がたった。  ハードな訓練をこなしながら、休憩がてらイーサンたちと話していく内に、少しずつだが今ミナトが置かれている状況が分かってきた。  まず、ここは寝室にあった地図の通りノースウェルという国で、東京どころか日本という国は存在しない。  ミナトなりに状況を整理すると、暴漢から逃げているうちに、なぜかこの『異世界』に迷い込んでしまったという事らしい。  自分でもそんなまさかと思ったが、考えれば考えるほどドツボにはまっていったので、ミナトは考えるのを止めた。  適応力というのは自分の置かれた状況を、自分なりに解釈して受け入れられる能力の事だとミナトは思う。  なら今、自分はノースウェルという異国にいてこうして訓練を受けている。  理由は分からないが言葉も通じるのだ。  ならば目標に向かって全力で進んでいくしかないだろう。  そして今日はついにカエデ救出作戦の決行日。  ミナトが作戦に参加できるかイーサンが見極める日だ。  プライベートビーチの射撃場で、イーサンと見合う。 「我ながら厳しい訓練だったと思うが、よくついてきたな」 「ありがとう。おかげで俺は強くなれた」  自分でも分かる。  ミナトはあの暴漢どころか、カエデを襲ったあの集団にも勝てるくらい強くなった。  正直それでもイーサンに勝てるかは分からないが、惨敗するような事はないだろうと思う。 「そうだな。お前は俺が想像していた何倍も強くなった。どうやら今日はこれを抜けそうだ」  イーサンは左手に帯刀していた刀を抜く。  始めて自分に向けられたイーサンの殺意に思わずつばを飲む。 「望むところだ、俺もいつも通り本気で行く!」  ミナトも右手にハンドガンを、左手にナイフを逆手に構える。  こうやって武器を構えるのもずいぶん手慣れた。 「毎日言ってきた事だが、最終日だからな。改めて言わせてもらう。  合格の条件はただ一つだ。俺に一瞬でも恐怖を感じさせること。  それじゃあ、始めようか」  イーサンが姿勢を低くし刀を両手で構える。  ミナトも大きく深呼吸をし、ハンドガンの安全装置を解除する。 「行くぞ!」  ミナトは姿勢を低くし、ばねのように飛びイーサンと一気に距離を詰める。  まずは先制攻撃と大きくナイフをふるう。  しかし読まれていたのか、最小限の動きだけで簡単に避けられる。  反撃に振られた刀をその場にしゃがみこんで避け、その勢いを残したまま、イーサンの足を払う。 「甘い!」  イーサンは少しジャンプをしてミナトの蹴りを避けつつ、落下の勢いも生かしつつ素早く刀を振るう。 「ッ!」 ミナトは刀を避けるため、左に転がりながら起き上がりざまにハンドガンを撃つ。  若干無理に動いたので関節に負担がかかる。  一瞬で呼吸を整え、再び接近する。 「どうした、動きが鈍くなってるんじゃないか?」  ミナトの連続ナイフ攻撃を軽々と避けながら、カウンターにパンチをしてくる。 「まだまだぁ!」  パンチを避けながら、ハンドガンで殴るのかという距離で数発引き金を引く。  それも涼しそうな顔で避けられる。 「それならお前の力をもっと見せてみろ!」  強烈な回し蹴りを腹部にくらってしまい、後方に大きく吹っ飛ぶ。  受け身も取れなかったので、呼吸ができない。 「ゲホッ、ガハッ。はぁ、はぁ」  吹っ飛ばされた時に口の中を切ったのか、血の味が広がる。  ミナトはこの日のために様々な攻めパターンを用意してきた。  しかしその全てが見破られ対応された。 (何か、イーサンの想像を超える択を考えないと……)  呼吸を整えながら、酸欠で頭痛がひどい脳をフル回転させる。  しかし一週間かけて考えた攻め択が全て通用しなかったのだ。  そう簡単に思いつくはずがない。 「目を見たら分かる、まだ諦めていないんだろう? 何を迷っている? 答えは初めから出ているはずだ」  楽な姿勢をとっていたイーサンが、再び刀を構える。 (そうだ、俺は誓ったじゃないか。どんな事をしてでもカエデを助けるって。こんな所で折れてられない。イーサンを倒す方法は戦いながら考える!)  大きく深呼吸をして、精一杯の力を足に込める。  余計な力を抜き、全身の力を一か所に集めるイメージだ。  今出せる一番早いスピードでイーサンに突っ込む。  いくら考えても思いつかないのなら、戦いの最中に考えるしかない。 「どうやら覚悟が決まったらしいな」  ミナトの顔つきが変わったのが分かったのか、イーサンは満足そうに笑ったのち一転して本気の顔つきに変わる。  イーサンに吹き飛ばされ続けたから分かる。  あれは本気でミナトの攻撃を警戒している構えだ。 「ふぅー、はぁ!」  吐き切った所で息を止め、全力で前方へ力を込めダッシュする。  まっすぐイーサンの懐に飛び込むように最大スピードで突っ込む。 「甘いな!」  これが走馬灯というやつだろうか。  イーサンが刀を水平に振り払おうとするのがスローモーションに映る。  回避もせずこのまま真っすぐ突っ込めばただでは済まないだろう。  だが体をよじって回避するという択は、ミナトの頭の中にはない。  そうならないためには、どうすればいいのか。答えはすでに出ていた。 (死角を……取る!)  そう強く思った瞬間、一瞬ミナトの意識が飛んだ。
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