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第五話:陰謀は等しく転移を狙う
まっすぐ突っ込んでくるミナトを居合切りの要領で切り払う。
完璧にイーサンの刀の間合いだった。
その間合いに入って回避した人間はこれまで一人たりともいなかった。
「なんだと……!?」
確かにイーサンは真っ二つに切断していた。
『ミナトが持っていたはずの拳銃を』しかしミナトはいない。
「一体どうして?」そう考えようとした瞬間、背後に強烈な殺意を感じ、振り返る。
そこにはナイフを両手で構え振り下ろしてくるミナトがいた。
「はぁー!」
「くそッ!」
普段なら、できるだけミナトの体を痛めないように加減して吹っ飛ばしたりしているのだが、今回はそんな余裕はなかった。
反射的にナイフが届かないように姿勢を下げながら、ブレイクダンスのように回りながらミナトの横腹に蹴りを入れ、吹っ飛ばす。
「ガハッ!」
手加減ができなかったので、ミナトは転がりながらフェンスに打ち付けられ、苦しそうなうめき声をあげ、腹部を抑えている。
「ミナトは魔術を使えないはずだ。いや、使えないどころか魔術なんて概念はファンタジーだとまで言っていた。だが、ミナトはやっぱり……」
ミナトが魔術を使うなんて一パーセントたりとも考えていなかった。
思わず考え込んでしまったが、ミナトの方へ走っていったアランにすれ違いざまに肩を叩かれる。
ふと我に返り倒れているミナトに駆け寄る。
「しまった、大丈夫か!」
「ゲホッ、ゲホッ!」
ぜぇぜぇと呼吸は荒いが、見たところ大きなダメージは負ってなさそうだ。
この一週間ハードな訓練に耐えてきただけあって、体は丈夫にできている。
「ああ、何とか、大丈夫……」
ミナトはゆっくりと呼吸を戻していき、座り込めるくらいにまで回復させる。
ミナトの様子が落ち着いた所で、イーサンが「気になっていたんだが」とミナトに聞く。
「お前、いつの間にあんな魔術なんて使えるようになったんだ? 『瞬間移動』なんて魔術師のお偉いさんが寄ってたかっても、いまだ成功したことが無いって聞いたぞ」
当然だが、ミナトが暮らしていた日本には魔術を使う『魔術師』なんて存在はいない。
なのでミナトが魔術なんて使えるわけがない。
しかしミナト自身もさっき体験したあの不思議な現象。
「俺もよく分からないんだけど、正面から戦っても絶対にイーサンには勝てない。だからどうにか、イーサンの背後をとらないとって思ったんだ。
そして切られる直前に一瞬意識が飛んで……気づいたらイーサンの後ろ側にいたんだ」
ミナトが体験したことをそのまま話す。
少しの嘘も誇張もないが、自分でも今話したことを信じる事が出来ない。
それくらいさっきの出来事は非現実的だった。
「そうか……。なにはともあれ、俺の背中を一瞬とはいえ取るとはな」
イーサンが感心そうに息をつく。
その様子を見て、ミナトもこの模擬戦の真の目的を思い出す。
「そういえば! じゃあ俺も作戦に……」
「ああ、ミナト。こちらこそ頼む。頼りにしてるぞ」
二ッと笑いイーサンが手を差し出す。
「おう、足を引っ張らないように頑張るよ」
ミナトはイーサンの手を取り立ちあがる。
風邪を引いた時のような体がだるい感じは多少あるが、さっきまで感じていた体の節々の痛みは消えている。
なぜだか分からないが、まぁ痛いよりは、痛くない方が良いのでいいだろう。
「それじゃあ帰るか。アラン、ミナト悪いが先に車で待っててくれ。俺は少しやることがあるから」
「うん、行こうミナト」
わざわざ今、やる事とはなんだ。
とは思ったが、アランがすたすたと歩いていくので、慌ててミナトも付いていく。
ミナトとアランが見えなくなるまで待って、イーサンはポケットから携帯型通信機を取り出し、どこかに連絡をする。
「ベイカーだ。やはり『転移』の性質を持ってたのはミナトだった。だがミナト自身には全く覚えがないらしい。いや、たぶん嘘ではない……と思う。
いや、ミナトが『転移』を持ってるなら連れの女の子は魔術は使えないはずだ。あの仮面野郎が反応は一つと言ってたからな。
はは、分かってるよ。転移魔術は絶対に俺が手に入れる。俺の目的のためにも、な」
数分会話をして通信を終了する。
通信機をポケットにしまい、射撃場を出る。
ふとミナトを回収したときに現れた仮面の男を思い出す。
イーサンの想像が間違っていなかったとしたらきっとあの男は……。
「まぁどうでもいいさ。必ず手に入れてみせる、あいつには渡さない」
昔、本で読んだことがある。
言葉にはコトダマと言ってパワーがあるそうだ。
だから海を見ながら、ボソッとつぶやく。
あの日交わした約束を守るために。
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